ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の舞台化・映像化について

最近、古代ギリシャの英雄叙事詩『オデュッセイア』の舞台化や映像化が注目されています。その一端をご紹介します。
紀元前8世紀の詩人ホメロスが謳った叙事詩『オデュッセイア』と『イリアス』は、ヨーロッパ最古の文学として名高いものです。ギリシャ神話のトロイ伝説をテーマとし、21世紀の現在にいたるまで何度も、舞台や映像で取り上げられてきました。

例えば、2004年に公開された、映画『トロイ』は、俳優ブラッド・ピットが英雄アキレウスを演じて話題となりました。
来年2026年7月には、クリストファー・ノーラン監督作品、2023年公開の映画『オッペンハイマー』の次回作である『オデュッセイア』が米国で公開予定です。どんな映像になるか、映画界で話題となっています。

さて、2025年2~3月、ボストンにあり米国の演劇文化の一翼を担う重要な劇場、アメリカン・レパートリー・シアター(略称ART)で『オデュッセイア』が上演されました。ちょうどこの時期、ボストンに滞在していたので、観劇する機会を得ました。『オデュッセイア』は、英雄オデュッセウスがトロイ戦争後、放浪の末、故郷へ帰還する物語です。この舞台で驚いたのは、主役のオデュッセウスが黒人男性だったことです。多様性を重視するアメリカ演劇界の新たな試みだと思います。そして、単眼巨人キュクロプスの目潰しや、怪鳥セイレーンのエピソードを盛り込んで、最終的に故郷イタカへ辿りつくという内容を、なかなか見事に舞台化していました。

なぜ、21世紀の世界で、古代ギリシャの英雄の物語が上演され、注目されるのでしょうか?ホメロスの叙事詩が、人間の心の深奥にある、普遍的な感情へ響くからと云えるかもしれません。今後も、舞台化、映像化は続いていくことでしょう。来年公開、ノーラン監督の映画『オデュッセイア』を楽しみにしているこの頃です。

ヨーロッパ・アメリカ学科教授 中村るい