【おしえてセンセイ!14】風の力を使って走る船が注目されているってホント?

A.燃費のいい船を実現するため、世界中で開発が進んでいます。

工学部 航空宇宙学科 航空宇宙学専攻 福田紘大先生

船舶の歴史を振り返ると、風の力を利用した帆船は紀元前の古代エジプト文明にまで遡ります。19世紀には、より推進力を確保できる燃料として、自動車や飛行機にも使われる化石燃料を使用した蒸気船が登場し、高速化のために帆船が減っていきました。

しかし、地球温暖化が問題視され、世界的にCO2排出量の削減が掲げられる現代では、CO2排出量の多い化石燃料を多く使う船舶の燃費向上やエコ化が求められるようになりました。そこで、燃料を必要とせず船を動かす推進力を生み出せる風の力に再び注目が集まったのです。

船舶にかかる抵抗力は、水の抵抗が約9割、空気の抵抗が約1割と言われます。数字だけ見ると、水の抵抗に負けない強い推進力さえあれば問題は解決します。ただ、軽視しがちな空気の影響は、空を飛ぶ飛行機や宇宙に向かうロケット、スポーツカーなどの開発で「空力」として重要な役割をしてきた領域です。そこで、航空宇宙分野の「空力」の知見を取り入れ、船の形を改良したり、飛行機の翼のような形をした帆を用いて、船舶の推力に活かす研究開発が全世界で進められています。飛行機の場合は、風に対して横向きに翼を配置して上向きに上げる力「揚力」を発生させますが、船の場合は縦に翼を配置して前方向の力「推力」を発生させるわけです。最近では、大型船の船首の空気抵抗を少なくするために、飛行機のように流線形にする試みも多く行われています。

私たちの研究室では、翼の形をした「硬翼帆」を使い、推力を発生させて燃費改善を目指す新型の大型船舶の開発プロジェクトを複数の企業と共同で展開しています。

「硬翼帆」とは、飛行機の翼と同じような断面形状を持つ硬い帆です。これを船舶の上に立てる形で配置すると、風から「推力」を引き出すことができ、船の推進力を補助できるようなります。私たちが新しく提案した船首形状の船舶に高性能化した帆を1本配置した場合、約17%のCO2排出量の削減効果が見込めることも分かっているため、帆を複数本設置すれば、さらに大きな燃費改善、CO2排出量の低減効果が実現できますし、実用化できたら大きな貢献になります。

私たちのグループでは、他にも、コンテナ船に設置する小型風防の研究開発も行っており、20%以上のCO2排出量の低減が見込まれています。さらに、航空宇宙分野の技術を応用した船舶用の「空力デバイス」の研究開発も行っています。現在特許も出願中で、これが実用化できるとさらなる燃費改善に繋がると期待しています。もちろん、硬翼帆と組み合わせれば効果はさらに高まります。

このように、1つの分野で学んだことや研究の成果が、他分野でも利用できることを発見して実際に応用していくのは大変面白いものです。技術をどんどん発展させるだけでなく、「学んだことを、どう使うか」を考えるきっかけにもなっていきます。船舶の燃費改善にも進展があるように、世の中では一見すると完成されたように見えるものでも、改善の余地は十分に残されています。そして社会のニーズはどんどん変わっていきます。そうした新しい技術やニーズに答える技術の開発につながる学習や研究は、とても楽しいものです。ぜひ一緒に取り組みませんか?


ふくだ・こうた 1977年東京都出身。横浜国立大学大学院工学府システム総合工学専攻博士課程修了。博士(工学)。横浜国立大学助手、University of Maryland, Faculty Research Assistant、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)情報・計算工学(JEDI)センター研究員などを経て、2011年より現職。東海大学ソーラーカーチーム監督、人力飛行機チームアドバイザーを務めている。専門は、流体工学。