文化社会学部ヨーロッパ・アメリカ学科と文学部歴史学科西洋史専攻では、両者の共催により、1月14日にシンポジウム「健康をめぐる諸相〜医学と 食から考える〜」を開催しました。これは、文化社会学部および文学部の連続企画「知のコスモス」の一環であり、また両学科の教員の研究成果を学内のみならず、学外にも向けて広く伝えるために毎年行っている企画です。
今年度は、私たちの身体や健康とそこに介入する生権力に注目して、両学科の教員がそれぞれの専門分野からの知見を発表しました。

まず、第一報告は歴史学科西洋史専攻 梅原秀元准教授が「ナチの精神医療とT4作戦について」と題して、第二次世界大戦期のナチ・ドイツ下で行われた精神疾患の患者と障害者を対象とした大量殺害、いわゆる「安楽死」殺害について、主に「T4作戦」を中心にとりあげて検討しました。その際に、そのような殺害がなぜ、どのように行われたのか、その殺害に医師や医学がどのようにかかわったのか、その殺害がドイツのその後の医学においてどのような影響を残したのかといったことについて議論しました。
講演後の質疑応答では、ナチの「民族共同体」と「共同体異分子」との関係、戦後ドイツの医学界がナチの過去にどのように対峙してきたのかといった更なる論点について議論を深めました。
第二報告の「ビーガン・スタディーズとは何か? その視座と射程」では、ヨーロッパ・アメリカ学科の丸山雄生准教授が新しい学問分野として2010年代から提唱されているビーガン・スタディーズに注目し、まずそれが動物の権利論などの隣接分野の影響を受け、理論的な研究と同時に食の正義の追求という実践を重視することを指摘しました。次に、キャロル・アダムズの先駆的な研究を再評価し、肉食とセクシズム、レイシズム、コロニアリズムの相関関係をアメリカ史の著名な絵画2点を題材に分析にしました。
シンポジウム全体では、医学と食から人間の身体や健康を考えるとき、正常と異常を分ける恣意的な線引きが浮かび上がりました。生きる命と死ぬべき命を切り分けた優生思想は科学を装って障害者や精神病患者の虐殺を正当化しました。動物を殺して肉を食べることは自明ではないにもかかわらず、自然で正しい食であるという神話的な思い込みが定着しています。本シンポジウムは正常の範囲を問い直す機会となり、参加者からは多数の感想や質問が寄せられました。すべてに答えることはできなかったものの、発表後の質疑でも充実した意見の交換が行われました。
参加者は100名を超え、大教室がいっぱいになる盛況でした。本学学生に加えて、若干の学外からの聴衆も見られました。