著書(共著)出版の紹介(文明学科・大平秀一)『古代アメリカ文明:マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』(2023、講談社現代新書)

2023年12月14日に、講談社現代新書より、『古代アメリカ文明:マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』が出版されました。この書物は、茨城大学の青山和夫氏が編著者となり、専修大学の井上幸隆氏、山形大学の坂井正人氏、そして本学文学部文明学科の大平秀一氏の4名の研究者が執筆しています。大平氏は、第4章「インカと山の神々」を担当しています。

新大陸の先住民の社会・文化の歴史は、スペイン人が15世紀末~17世紀に残した歴史文書の影響もあり、極めて歪んだ眼差しが向けられてきました。その怪しげなイメージは、映画等の題材ともなり、面白おかしくあるいは恐怖を植え付けられながら、消費されてきました。本書では、こうした虚像から脱却し、自然・大地と共に生きた新世界先住民の歴史が新たな視点が示されています。この書物は、青山氏が領域代表者を務めた日本学術振興会科学研究費補助金新学術領域研究「古代アメリカの比較文明論」の成果の一部です。

大平秀一氏談

 「インカ」という言葉すら、16~17世紀のスペイン人によって、後に創り上げられている可能性があります。執筆担当箇所では、「ワロチリ文書」(1608頃)という先住民の語りを基に、アンデスの大地・自然と呼応し合って生きている人々の心の内奥に迫り、新たなインカ理解を試みました。これまで、学問領域を横断して、インカの遺跡の発掘調査、歴史文書の調査・分析、そして民族誌調査を進め、多様な角度から先住民世界を考えてきました。アンデスの人々の柔らかな思考は、日本列島にかつて生きた我々の祖先とかなり似通っているように思います。大地・自然と呼応し合って生きている人々を熟考すると、現代社会に生きる我々の心身から、大地・自然・生き物そして生き物としての人間を柔らかく捉える大切な感性が失われつつあることに気付かされます。自然破壊、環境問題、少子化(婚姻関係・家族形成を求めない)、人口減少などといった、日本を取り巻く現代社会・現代文明の多様かつ深刻な問題には、こうした我々人間の心身の特徴が深く関わっているのかもしれません。

本の詳細(講談社):https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000384940

一部の内容を読む(講談社現代新書):https://gendai.media/articles/-/123317?imp=0