「知のコスモス」講演会「中東・北アフリカの乾燥地域で育まれた動物・植物・鉱物利用をめぐる在来知」を開催しました

 文学部文明学科では2月11日に、「知のコスモス」講演会「中東・北アフリカの乾燥地域で育まれた動物・植物・鉱物利用をめぐる在来知」をオンラインで開催しました。人間の発明した技術の発展とともに、自然はさまざまな問題に直面しています。本学部では、自然と人間の関係性を見つめ直す機会として、経験豊富なフィールド・ワーカーを講師に招き、世界各国の人々や社会課題などについて講演いただく「シリーズ 国家・自然・人間」を企画。第1回となる今回は、秋田大学大学院教授で文化人類学者の縄田浩志氏に中東・北アフリカの社会についてお話しいただきました。当日は、学生や教員、一般参加者ら約30名が参加しました。

 講演では、はじめに縄田氏が自身の経歴や活動について説明するとともに、中東での調査時に砂嵐に見舞われた経験を語り、「体に当たる砂はとにかく痛く、視界がきかなくなるので自分が向いている方向が分からなくなります。あたり一面砂漠の世界やその環境で暮らす人々とかかわる中で、人は一人では生きられないことを痛感するとともに、自然に対する畏敬の念が芽生えました」と振り返りました。続いて、乾燥帯が大半を占める中東の地理や古代エジプト文明の発展に大きな役割を果たした河川、動植物について解説し、「紀元前5000~3000年までにアラビア半島での栽培が始まったナツメヤシは、中東の代表的な樹木の一つであり乾燥と高温に強い性質を持っています。幹は建材に、葉は籠、繊維は紐の材料、実は食物と多目的に利用できるナツメヤシを中心とした作物栽培の生産システムが確立されていきました」と語り、遊牧民と内陸のオアシス民の共存関係や資源への向き合い方について説明しました。次に、降水量が低い乾燥地帯の人々の水とのかかわりや地下式灌漑水路「カナート」の仕組みなどについて話し、「各家庭で雨水をためる地下貯水槽『サビール』は、善行を積むと両親が天国に行けるという考えのもと、宗教的な施しとして今も誰でもどこでも飲むことができるようにされています。また、現地の人々は、ヤギ皮の水袋や土製の水壺を使用して、気化熱の効果で冷たくする天然の冷蔵庫を使用しています。このように生存に大きく直結する貴重な水は、いかに保存し利用するかが重要となります」と語りました。

 最後に、人類学の観点から現生人類がアフリカで生まれてから現在に至るまでの在来知について解説。「人類はウマやヒツジなどの家畜種を遊牧しながら世界各地へと拡散しました。資源である家畜を時には殺めて共同体の全員で食べることで、生き残りを図りつつも社会を存続させるなど、異民族間・異種間の共生の枠組みが形作られていきました」とまとめました。