海洋学部海洋文明学科の斉藤雅樹教授が、大分県・別府国際コンベンションセンター ビーコンプラザで5月25日から27日まで開かれた「おんせん県おおいた世界温泉地サミット」(主催:世界温泉地サミット実行委員会)の「分科会②医療・健康・美容」に参加。開発に携わる入浴ナビゲートシステム「Yu-navi」の基本構想と試作機を紹介しました。
「Yu-navi」の開発は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)・未来社会創造事業の「世界一の安全・安心社会の実現―ヒューメインなサービスインダストリーの創出―」領域に採択された研究課題「自発・自律型エビデンスに基づくBathing Navigationの実現」(研究代表:東京都市大学人間科学部・早坂信哉教授)の一環として、東京都市大、株式会社博報堂、株式会社APCと本学との協働で進められています。日本では、入浴に関連した事故死が年間19000人と推定されており、これは交通事故死の約5倍といわれています。本研究では、専用デバイスを通じて一般市民の入浴データ(湯温、血圧、入浴時間、その日の体調など)を収集し、安全・適切な入浴をナビゲートする「入浴のシートベルト」づくりを目指しています。
分科会では、環境省が提案している「新・湯治」(温泉周辺の自然環境や歴史的背景を観光資源とし、温泉地の活性化につなげる官民一体の取り組み)が議題に上がりました。これに対し、「Yu-navi」プロジェクトの研究代表者である早坂教授が、外国人観光客や日本全国から訪れる老若男女の観光客、地域住民に対して、自身の体調・体質に適した温浴を推奨するために、温泉効果の把握や数値化が課題になっていると説明。続いて斉藤教授が、「Yu-navi」プロジェクトで実施した大分県の県庁職員、大分市職員ら約3900名を対象とするSNS上での温泉入浴後の体調の変化に関するコメント収集の結果を報告しました。ぬるめの湯が交感神経の活動を抑えてよい睡眠につながるとされていたこれまでの基礎研究に対し、本調査では高めの湯温で入浴した方が「眠れる」とコメントした人が多く、「温泉利用者の主観を集める市民参加型の『ソフトエビデンス』を大量に集めることで、新たな知見が得られる可能性があります」と語り、温浴データ収集デバイスのプロトタイプとして開発した「fuuron(フーロン)」や船型デバイスとその役割を紹介しました。来場者からは、温泉浴における新しい情報収集の方法に興味を示す声が多く寄せられました。
斉藤教授は、「入浴事故死の原因はヒートショックが多いとされていますが、本当の原因や状況はよくわかっていません。入浴時は基本的に一人なので、自ら予防してもらうために、Yu-naviが入浴時の”シートベルト”になってほしいという思いがあります。現在は各メーカーのウェアラブルデバイスと連携して、血圧や血中酸素飽和濃度などを計測し、日によって変わる体調に適した入浴を指南するアプリケーションの開発を進めています。今後は、『fuuron』やウェアラブルデバイスから得られるビッグデータを分析し、温泉・入浴文化の世界標準を確立させて一つでも多くの入浴事故減少につなげたい」と語っています。