
医学部医学科の豊元柊弥特任助教(基礎医学系生体防御学領域)が、10月17日に群馬大学で開催された第108回日本細菌学会関東支部総会で「Klebsiella pneumoniae由来菌体外膜小胞によるマクロファージ機能制御」をテーマに研究成果を発表し、「優秀発表賞」を受賞しました。
豊元特任助教は、腸内に共生して免疫や代謝の働きに深く関与する「腸内細菌」について研究しています。本研究では、その一つである 「Klebsiella pneumoniae」(肺炎桿菌)に注目し、この菌が放出する微粒子「菌体外膜小胞(KpEVs)」が、免疫細胞であるマクロファージに対してどのような生物活性を示すかを解析しました。その結果、KpEVsの影響を受けたマクロファージでは、異物を排除するために欠かせない一酸化窒素の産生量が著しく低下していく分子メカニズムを明らかにし、さらに、KpEVsはマクロファージの異物排除機能を誘導する「インターフェロン」という免疫信号の働きを抑制し、細胞全体が活発に戦う状態から免疫を抑える穏やかな状態へと性質を変えてしまうことも明らかにしました。この成果は、腸内細菌が宿主の免疫応答に与える変化や、疾患の発症・進行に及ぼす影響を理解するために重要な知見であり、腸内細菌と疾患の関係を解明するための手がかりになる知見として高く評価されました。
豊元特任助教は、2025年3月に熊本大学大学院医学教育部博士課程を修了。同大学院生命科学研究部微生物学講座の博士研究員を経て、7月から本領域の津川仁准教授(総合医学研究所)のラボで研究に従事しています。「優秀発表賞をいただき大変光栄に思います。今後は、腸内細菌と疾患の関連性、特にがん転移への影響について解明を進め、生命現象としての共生や免疫調節の理解をより深めていきたい」と意欲を語ります。
津川准教授は、「本研究は、肝臓や肺など消化管から遠く離れた臓器で生じる疾患に腸内細菌が関与することを、分子レベルで具体的に明らかにした世界初の知見であり、この成果を基盤として、腸内細菌を標的としたあらゆる疾患に対する予防法や治療法の開発が開始・進展していくと期待されます。豊元特任助教には、腸内細菌に関わる疾患生物学を分子・細胞・個体レベルによる多角的視点からあらゆる研究手法により解析し、世界における本学問領域を牽引してほしい」と期待を語っています。
※津川准教授と豊元特任助教が展開する研究の詳細は、下記URLからご覧いただけます。
https://sites.google.com/view/host-defense-mech-transkingdom/home