
伊勢原キャンパスの医学部付属病院で10月18日に、市民公開講座「心臓の病気」を開催しました。心疾患と血管疾患に関する医療のさらなる充実を目指して今年4月に開設した循環器疾患センターが企画したもので、循環器内科と心臓血管外科の医師3名が最新の知見や診断・治療法について解説。近隣住民ら約160名が参加しました。
初めに、伊苅裕二センター長(循環器内科診療科長、医学部医学科教授)が登壇。センター設立の背景や目的を紹介し、「循環器内科と心臓血管外科、多職種が緊密に連携した“ハートチーム”が最先端の診断・治療を提供し、地域に貢献していきます」とあいさつしました。
講演では、循環器内科の柳下敦彦准教授が、心臓を動かす電気システムの異常により発症し、心不全や脳梗塞などを引き起こす「心房細動」の原因や症状について説明。カテーテル(細い管)を足などの静脈から心臓に通して異常な電気信号の発生部位を焼いたり凍らせたりする「カテーテルアブレーション」や、高圧電流で壊死させる最新の「パルスフィールドアブレーション」といった、当院で実施している治療法を紹介し、「人生100年時代に向け、QOL(生活の質)の維持・向上や健康寿命の延伸につなげたい」と語りました。
同じく循環器内科の上岡智彦講師は、血液の逆流を防ぐ心臓の「弁」の狭窄や閉鎖不全により心機能が低下する「弁膜症」について解説。特に患者数が多い「大動脈弁狭窄症」に対する早期発見・治療の重要性を訴え、小さな症状を見逃さず、定期的に医師の聴診を受けるといったポイントを紹介しました。さらに、カテーテルを使って人工弁を植え込む「経皮的大動脈弁置換術」(TAVI)と開胸手術の特徴を説明し、「心臓血管外科と力を合わせ、患者さんの状況に応じた最適な治療法をご提案します。遠慮なくご相談ください」と述べました。
心臓血管外科診療科長の長泰則教授は、冠動脈の狭窄や閉塞により心臓を動かすために必要な血流が滞って心筋の一部が壊死する「心筋梗塞」など、重症虚血性心不全の手術法を説明。補助人工心臓の植え込み術や心臓移植のほか、心筋梗塞により低下した心筋の収縮力を補うために肥大した左心室の壊死部を切除して機能を改善させる「左心室形成術」(SVR)について解説し、「SVRは、患者さんが心臓移植に頼らずに天寿を全うできる治療法になり得ると考えています。今後も多様な心疾患に対する適切な治療を提供していきます」と結びました。



終了後には、治療法の選択基準や術後の生活における留意点など、会場から多くの質問が寄せられ、登壇者が丁寧に回答しました。参加者からは、「とても分かりやすい説明でした。さまざまな治療法の長所や短所が理解できました」「息切れや疲れやすいといった症状を年齢のせいと決めつけず、医師に相談するようにしたい」といった感想が聞かれました。
※当日のプログラムは以下のとおりです。
【開会挨拶】
伊苅裕二教授(循環器内科診療科長、循環器疾患センター長)
【講演】
座長:伊苅裕二教授
1.「進化する心房細動治療 ~薬からカテーテル、そして次世代治療へ~」
講師:柳下敦彦准教授(循環器内科)
2.「知っておきたい心臓の病気 ~弁膜症の早期サインとカテーテル治療の最前線~」
講師:上岡智彦講師(循環器内科)
3.「重症虚血性心不全に対する外科治療の現状と展望 -STICH WARS: A New Hope with Scar Exclusion-」
講師:長 泰則教授(心臓血管外科診療科長)
【閉会挨拶】
伊苅裕二教授