東海大学では中部大学との共催で、12月13日に愛知県春日井市の中部大学三浦幸平メモリアルホールで、地球市民セミナー「『地球市民のルネッサンス』AI×身体×脳 ~身体を持ったAIと人間の共進化~」を開催しました。中部大学と本学は2021年に包括協定を締結しており、両大学のキャンパスで交互にセミナーを開いています。5回目となる今回は、コンピューターの中で動いていたAIが身体を持ち、現実世界で人や環境と関わりながら進化する「フィジカルAI」の時代が始まろうとしている現代社会において、人とAIが影響し合いながら共に生きる未来社会の姿を、専門家による講演と対話を通して考える機会にするためテーマを設定。オンラインでも配信し、計201名が聴講しました。

初めに、中部大の前島正義学長があいさつに立ち、一昨年に続いてAIをテーマに据えた経緯を説明。「生成AIが既に広く活用されている一方で、時代はフィジカルAIに移っています。AIの発展に伴うさまざまな懸念もある中、哲学や倫理の専門家の重要性が高まっています。分野の異なる先生方のご意見をうかがい、明るい未来のあり方や社会基盤について考える機会になると期待しています」と語りました。
基調講演では本学文化社会学部心理・社会学科の田中彰吾教授が登壇。「人間っぽいエージェントとの共生を考える」と題して、まず生成AIの登場が変えた日常生活について指摘。AIが持つ言葉と現実が乖離する記号接地問題に触れつつ、ロボットAIの「Ameca」を用いた実験の様子を映像で紹介し、「人間っぽいエージェントであるAmecaは幸せという抽象概念や悲しいという感情語も高度に使いこなしていますが、実際に具体的な経験はしておらず、人間が発話するのと同じレベルで真に意味を理解しているわけではありません。人間同士の『あいだ』の空間は非言語的な交流を通じて豊かな経験を生み出す場ですが、AIロボットとの共生においても、完全に人間に共鳴するだけでなく、ある程度のかみ合わなさがあるからこそ人間が新たに成長できるのではないでしょうか。AIロボットが心を持つことが最終目標ではなく、重要なのはうまく『あいだ』をつくれるロボット設計と、人間側もロボットとの関係を主体的に工夫できることです」と語りました。




続いて中部大学理工学部AIロボティクス学科の平田豊教授が「脳×身体+AI×ロボット=楽しい未来?」をテーマに講演し、AIの歴史と今後の展望を解説。ロボットという身体を持ち、センサーを通じて実世界と相互作用することで学習するモデルになり得るフィジカルAIをはじめ、人間の脳が身体を通じて外界と相互作用することで構築される「世界モデル」、現在のAIと人間の脳の情報処理能力比較、脳と機械を接続するブレインマシンインターフェース(BMI)技術の進展について解説。「AIがセンサー付きのロボットを介して世界とつながることで、人間と同様に自己と他者を含む世界モデルを獲得できる可能性があります。ただし、そのためには膨大なデータと計算資源が必要であり、実世界でのデータ収集や仮想空間でのシミュレーションが重要になります」と指摘しました。






後半のパネルディスカッションでは平田教授がモデレーターを務め、本学から田中教授と濱本和彦副学長(情報理工学部情報メディア学科教授)、中部大から理工学部AIロボティクス学科の藤吉弘亘教授とイジェリョン准教授、創造的リベラルアーツセンターの鈴木順子教授が登壇。それぞれが専門の立場からAIに関する研究成果の発表や話題提供を行い、AIの意識や感情、人間との関係性、倫理的配慮などについて活発な議論を展開。会場からの質問にも応えました。最後に本学の木村英樹学長があいさつし、「本日のセミナーを通じて多くの示唆を得られましたが、特に人間らしさとは何かという根本的な問いについて考える機会になったと感じています。さまざまな専門分野の知見が集まった貴重な機会であり、今後も中部大学と本学の連携を継続していきたい」と結びました。


