岡村准教授、張研究員らの研究グループが光学顕微鏡で生体試料を高精細でより深く観察する新技術を開発しました

工学部応用化学科の岡村陽介准教授(マイクロ・ナノ研究開発センター)、張宏研究員(同)らがこのほど、撥水性のナノシートを活用して一般的な光学顕微鏡で生体試料を高精細でより深部まで観察できる新技術を開発しました。成果をまとめた論文が1月10日付で、科学全般に関するオンラインジャーナル『PLOS ONE』に掲載されています。

岡村准教授らの研究グループは、北海道大学電子科学研究所教授の根本知己氏(現大学共同利用機関自然科学研究機構生理学研究所)と同助教の大友康平氏、愛媛大学大学院医学系研究科准教授の川上良介氏らと共同で研究。独自の高分子超薄膜(ナノシート)製造技術を活用した新たな顕微鏡観察技術(イメージング)の開発に取り組んでいます。これまでの研究では、撥水性ナノシートで試料をラッピングすることで臓器を乾燥させずに長時間観察ができる技術や、ナノシートに細かい穴をあけた多孔質ナノシートで浮遊している細胞を覆うことで、生きたままの状態で薬剤などが試料に与える影響や変化をリアルタイムで長時間観察する技術を提唱してきました。

今回の研究では、従来の顕微鏡観察では不可欠だったカバーガラスの代わりに撥水性ナノシートで試料をラッピングし、より深い場所まで高精細で観察できる新手法を開発。カバーガラスは通常170㎛程度の厚みがありますが、その厚みの分、顕微鏡で観察できる深さが制限されます。特に、倍率の高いレンズで高精細な画像を撮ろうとすると、レンズが動く距離(作動距離)が短くなり、カバーガラスの厚みが邪魔になって深くまで観察できません。岡村准教授らは、カバーガラスの上に載せた試料を極薄(130㎚)の撥水性ナノシートで覆い、カバーガラスより1000分の1薄いナノシートを介して撮影することで、これまで120㎛程度の深さまでしか観察できなかった試料を、300㎛程度まで観察できるようにしました。また、論文作成にあたっては、2019年3月に大学院工学研究科応用理化学専攻を修了した鎗野目健二さんが実験で大きく貢献しました。

張研究員は、「この研究成果は、顕微鏡観察を行う多くの研究者に貢献できるもので、幅広い分野で活用できるものだと感じています。特に光学の分野では根本先生をはじめとする共同研究者の協力がなければここまでの成果を出すことはできませんでした。ともに尽力した鎗野目さんにもとても感謝しています」とコメント。岡村准教授は、「ナノシートを使ったイメージング技術としては、これまで乾燥を防ぐ手法や浮遊細胞を観察できる手法を提案してきましたが、今回の論文によってナノシートを使ったイメージング技術の土台が固まったと感じています。今後は応用分野にもさらに力を入れ、出血などを止めつつより深くまで観察できるナノシートや激しく動く臓器にも使用できるような密着性のより高いシートの開発に取り組んでいきたい」と話しています。

【論文タイトル】
Nanosheet wrapping-assisted coverslip-free imaging for looking deeper into a tissue at high resolution

【論文URL】
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0227650

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