医学科の原助教が抗がん剤ブレオマイシンの投与によって発症する肺障害のリスク要因と予防の可能性をもつ薬剤を明らかにしました

医学部医学科の原隆二郎助教(内科学系血液・腫瘍内科学)がこのほど、抗がん剤ブレオマイシンの投与によって発症する「ブレオマイシン誘発性肺障害」(BLM-induced lung injury=BLI)のリスク要因の1つが高血圧症であることを特定し、予防の可能性をもつ薬剤を明らかにしました。

ブレオマイシンは、血液がんの一種であるホジキンリンパ腫をはじめ、性腺(精巣、卵巣)や縦隔(左右の肺に囲まれた部分)などに発症する胚細胞腫瘍の治療に用いられる有用な薬です。しかしブレオマイシンの投与により、ホジキンリンパ腫患者の10~30%、肺細胞腫瘍患者の5~30%がBLIを発症し、発見が遅れた場合には致命的な経過をたどる場合があります。BLIは、高齢であることやブレオマイシンの総投与量、特定の造血剤の併用、放射線療法の併用などにより発症リスクが高まることが知られていますが、こうした要因を伴わない症例も多く、他のリスク要因の存在が想定されていました。一方、動物モデルを用いた研究では、血圧調整にかかわる「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系」(Renin-angiotensin-aldosterone system=RAAS)の働きによって生産されるホルモン・アンジオテンシンⅡが血圧を上昇させてBLIを含む肺障害の悪化をもたらし、アンジオテンシンⅡの働きを抑制するRAAS阻害剤(降圧剤)を投与すると肺障害が減少することが報告されていました。

原助教はこうした知見からBLIと高血圧症、RAASの関係に着目し、「高血圧症がヒトのBLIのリスク要因となるか」「血圧を低下させるRAAS阻害剤はヒトでも肺障害を軽減できるか」を明らかにするための研究に着手。2004年から18年にかけてブレオマイシンを用いて治療したホジキンリンパ腫患者と胚細胞腫瘍患者計190名を抽出し、カルテに記載された既往や治療法などのデータを統計的に解析しました。その結果、BLIの自覚症状がある患者21名について、「高齢(65歳以上)」「ホジキンリンパ腫に対する治療」「腎機能障害」「高血圧症」の4つの既往因子を抽出。4因子についてさらに詳細に解析し、「高齢」と「高血圧症」の2つがBLIの発症にかかわるリスク要因であることを突き止めました。この成果に関する論文は2020年10月に、学術誌『Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia』オンライン版に掲載されました。

原助教は、「高齢がBLIの危険因子であることはすでに報告されていましたが、高血圧症とBLIの相関は本研究で初めて明らかになりました。またこの結果は、RAAS阻害剤がマウスなどの動物だけでなくヒトにおいてもBLIの発症を防いだり軽減したりできる可能性を示唆しています。BLIは、患者さんの生存に大きな影響を与えます。今後は、BLIの発症リスクが高い患者さんに対してブレオマイシン以外の治療薬を使用したりブレオマイシンとRAAS阻害剤を併用したりするなど、より安全で効果的な治療法について研究していきたい」と話しています。

なお、『Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.clinical-lymphoma-myeloma-leukemia.com/article/S2152-2650(20)30556-5/