大学院生物科学研究科生物科学専攻3年次生の富永悠幹さんがこのほど、熊本県内の若手研究者の基礎研究を奨励する一般財団法人「ウェルシーズ」の「2023年度研究奨励金」受賞者に選出。2月15日にホテル熊本テルサで行われた贈呈式に富永さんと指導教員の永井竜児教授(農学部食生命科学科)が出席しました。贈呈式では井出博之代表理事から5名の受賞者に目録が手渡され、それぞれ研究概要をプレゼンテーション。来賓祝辞としてあいさつした東海大学学長付の荒木朋洋教授(総合農学研究所)は医学部生と共に研究に励んだ学生時代を振り返り、「当時は臨床が主流で、基礎研究は何の役に立つのかと言われていました。しかしそれから40年が経つ今、まさにその基礎研究が花を開き、さまざまな成果が生まれています。皆さんの研究が将来必ず役に立つことを期待しています」と語りました。
富永さんの研究テーマは「生活習慣病予防を目的とした脂肪細胞由来フマル酸産生を抑制する天然物の探索」です。生活習慣病の発症・進展に伴って生体内では炎症反応が進み、さまざまな代謝産物が生成されます。特にTCA回路の中間体であるフマル酸は高グルコース条件下で脂肪細胞から分泌され、マクロファージと相互作用することで炎症反応を引き起こすと報告されています。そこで富永さんは、脂肪細胞を用いた高グルコース条件下におけるフマル酸の産生を阻害する天然物の探索および作用機序の特定を計画。過剰なフマル酸の産生を抑制する天然物の同定と作用機序が特定できれば、健康寿命の延伸のみならず生活の質向上にもつながると期待されています。
富永さんは、農学部に在籍していた当時から永井教授の下で老化物質「AGEs」について研究してきました。その中で、日本特有の食虫植物である「トウカイモウセンゴケ」がフマル酸の産生を抑制する可能性を発見。その他にもいくつかの天然物が候補に挙がっており、3月に本専攻を修了した後も永井教授の研究室に博士研究員として所属し、1年かけて本研究に取り組んでいきます。「いつか自分もかかる可能性のある生活習慣病について研究を深めるとともに、食事で予防する方法を模索したいと考えています。トウカイモウセンゴケは食虫植物なのでそのまま食品にすることは難しいですが、海外ではコケから抽出した成分をお茶やシロップとして商品化している例もあります。本学には商品化のノウハウを持った先生がいらっしゃり、そのような活動に取り組むサークルもあるので、広く知識を得ながら取り組んでいきたい」と話しています。