医用生体工学専攻生の論文が「電気学会論文誌C」に掲載されました

大学院生工学研究科医用生体工学専攻の松本隼哉さん(1年次生、指導教員=水谷賢史准教授)と永田裕幸さん(2年次生、同)の共著論文が、一般社団法人電気学会の「論文誌C(システム・情報部門)」に掲載されました。論文のタイトルは「VR環境下において物体の着地衝撃音で重さを想起させる音色の周波数と感性評価」です。

この研究は、VR(バーチャルリアリティ)の技術を活用して人間の感覚的な情報と行動の関係を検証し、リハビリテーションやトレーニングなど医療現場への応用を図るものです。人間は色や形といった感覚的な情報から距離感や重さなどを予測します。実際にその物体を持ち上げたとき、重さが予測以上なら重く感じ、予測以下なら軽く感じます。VR空間内は感覚のみが存在することから、こうした実験に適しています。松本さんと永田さんは、20歳の男子大学生延べ26名を対象に実施したVRと現実の動きを連携させた実験結果とその検証についてまとめました。実験では、現実でコントローラーを肩の高さまで水平に持ち上げるとVR空間内のダンベルが持ち上がり、VR空間のダンベルを落としたときの衝突音の違いによって、感じる「重さ」や「軽さ」の度合いを調べました。掲載にあたっては、これまでも音や形から重さを予測させる研究はありましたが、ダンベルという実際に持ち上げる用途のものをVR空間内で映像化して音による重さの錯覚を検証した点が高く評価されました。

筆頭著者の永田さんは、「この実験は人間の知覚が相互に影響を与える“クロスモーダル現象”を利用したものです。金属音と木材音という異なる音色を用いて共通点を探したところ、被験者は実際の重さは変わらなくても衝突音が低音や小音量だと重いと感じ、高音や大音量なら軽いと感じることがわかりました。将来的にリハビリテーションの現場などで効果を発揮すると思います」と説明。「掲載されるまでに査読されては指摘を受けて修正を繰り返し厳しい経験をしましたが、その過程で論文を仕上げていく手応えを感じました。今後は声の大きさや高さで相手との距離感がどのように変わるのか、コミュニケーションに関わる研究を進めたい」と今後の抱負を話しました。

松本さんは、「査読で厳しい意見を受けて修正を続け、改めて自分自身の研究に対する動機やモチベーションを維持することが重要だと気付きました。私たちの研究はVRをよりリアルな現実に近づけるのではなく、あくまでも疑似的な触力学に注目して、体に負担ない重さのものでもVRを使うことでより重いものを持ち上げることができたという自己効力感にまつわるものです。今後は、このような脳の錯覚の持続期間や持続強度について研究を続けていきたい」と話しています。

2名を指導する水谷准教授は、「論文掲載を成し遂げる過程で膨大な先行研究を読み解くなどして、2人とも大いに知見を深めました。医療工学分野は、脳科学や生物学などのバックグラウンドがあるからこそ、研究を深めた先には限りない可能性が広がっています。多くの学生に後に続いてほしい」と話しています。