公開シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムが『近代』を問い直す 思想史と人類学の対話」を開催しました

課程資格教育センターでは12月1日に湘南キャンパスで、公開シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムが『近代』を問い直す 思想史と人類学の対話」を開催しました。本センターではこれまで、年齢や身体的障害などの有無にかかわらずあらゆる人が楽しめる博物館施設のあり方を考えるシンポジウムを開いています。今回はその第5回で、市民や学生ら約80名が参加しました。

最初に木下長宏氏(元横浜国立大学教授)が「美術史以前 無文字文化と文字文化」と題して講演。日本の歴史を一つの時間軸で表すとそのほとんどが文字を持たなかった「無文字時代」であることや、平安時代に書かれた『古語拾遺』では、「文字を持たない時代は口伝えで大事なことを覚え、他人を裏切ることもなかった。文字が生まれてから人々は先のことばかりを考え、流行を追うようになった」と書かれており、無文字時代を肯定的にとらえる見方があったことなどを紹介。そのうえで「見立て」に代表されるように、芸能や芸術の中に無文字時代の感覚が長く息づいてきたと語り、「文字文化は視覚優先の文化とも言い換えることができる。その中で欠けているのが触覚。『近代』の壁を破るためには、その意識を再度取り戻す必要がある」と語りました。

続いて本センターの篠原聰准教授の司会進行のもと、木下氏と広瀬浩二氏(国立民族学博物館准教授)が対談。無文字文化から文字文化に移行した背景、広瀬氏が提唱している「無視覚流鑑賞」、「健常者」と「障がい者」を並立させる視点を変革することの大切さ、これからのミュージアムの方向性などについて意見を交換しました。さらに木下氏は、学芸員を目指す学生に対して、「皆さんには自分が取り扱う作品を愛してほしい。それができなければ、学芸員にはなるべきではないとも思います。好きな作品を一つ見つければ、そこからさまざまな領域に広がっていきます。そのことを忘れないでください」とメッセージを送りました。広瀬氏は、「学芸員課程で学んでも実際に学芸員になれる人は多くはありません。しかし、そこで学んだことは社会を底から変えるために役立つことなのだと信じてしっかり学んでください」と語りました。

参加者からは、「ユニバーサル・ミュージアムの概念については理解していたつもりでしたが、個々人が置かれている状況で作品を楽しめる環境を用意する必要があるという視点を学ぶなど、とても参考になりました」「博物館では『目で見る』という鑑賞方法が当たり前だと思っていましたが、触覚で鑑賞するなどそれ以外の方法があることを知りました。とても興味深い内容でした」「無文字文化と文字文化の関係を進化の過程ととらえるのではない視点が興味深かった。我々の日常では文字があることが当たり前になっている中で、無文字の可能性を考えることの大切さを感じるイベントでした」といった感想が聞かれました。

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