「文化財を科学するII―本学所蔵エジプト及びアンデスのコレクションの多角的研究―」研究発表会を開催しました

文明研究所とマイクロ・ナノ研究開発センターでは6月26日に、湘南キャンパスのマイクロ・ナノ研究開発センターをメイン会場に、WEBビデオ会議システム「Zoom」を併用して「文化財を科学するII―本学所蔵エジプト及びアンデスのコレクションの多角的研究―」研究発表会を開催しました。両研究所では2018年から、本学が所有する文化財コレクションを高度な光学機器を使って分析し、古代の技術や用途の解明を目指す研究を進めています。今回の研究会は、約50名の人文科学と物理学、化学、生物学、情報学の研究者や学生が参加し、それぞれの専門的見地から議論を行いました。

開会にあたっては、文明研究所の山本和重所長があいさつし、「今回は本学の所有するコレクションを人文学や化学、物理学など多様な学問の融合で検証する取り組みの成果を報告するもので、文系・理系を問わず多くの学生も発表します。この貴重な機会を生かし、今後の研究の発展につなげてもらいたい」と期待を語りました。研究発表では最初に文学研究科の竹野内恵太氏(独立行政法人日本学術振興会特別研究員・山花研究室所属)が古代エジプトの土器のX線CTスキャン画像を解析し、土器成形と調整方法に関する新知見を発表しました。続いて、古代エジプトで最古とされる施釉凍石の復元についての研究発表を文化社会学部アジア学科の山花京子准教授と工学部応用化学科の秋山泰伸教授が行いました。さらに、施釉凍石の次に古いガラス質物質であるファイアンスのX線CTスキャンを行った山花准教授が、得られた画像解析結果より、ファイアンス製作に使われた材料が時代や用途により変化していることを発表しました。

また、本学のコレクションの成分分析を行ってきた東京電機大学大学院工学研究科物質工学専攻助教の阿部善也氏は、ポータブル非破壊蛍光X線分析装置を用いて紀元前2千年紀の古代エジプトとメソポタミアの銅赤ガラスの化学組成の違いを割り出し、地域により製造方法に違いがあることを明らかにしました。続いて、竹前廣大さん(大学院理学研究科修士2年次生)が、アンデス・コレクション所蔵のアンタラと呼ばれる笛およびボトル型楽器土器(笛球付土器)をX線CTスキャンし、得られたデータから共鳴周波数(音階)を解析し、音が出る構造を検証しました。そして、歴史的にガラスが発明されなかったアンデス地域にガラス玉製ネックレスが存在することに注目した山花・秋山教授らが、ガラス玉の復元実験から時代と流入経路をたどる試みを発表しました。

最後に、アンデス・コレクションの土器について文学部文明学科の吉田晃章准教授が本学イメージング研究センターの粟野若枝技術員との共同研究による成果について発表。同センターのX線CTスキャンの画像撮影により、真贋判定が高精度で行える可能性を指摘しました。さらに、ディスカッションではX線CT画像の比較検証に重要な定量化を実現するための意見交換が行われました。

マイクロ・ナノ研究開発センターの喜多理王所長は、「研究プロジェクトを進めていくうえで有意義な会になりました。今後は他大学などとも連携を深め、本学所蔵文化財を活用した文理融合研究を推進するために研究会を継続していきたい」と閉会のあいさつを述べました。