医学部医学科の松前助教らが北東アジアの言語族間の遺伝的および文化的多様性の相関関係を解明しました

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の松前ひろみ助教らの国際研究グループが、北東アジアの言語族間の遺伝的および文化的多様性の相関関係を解明。その成果をまとめた論文が8月18日(日本時間19日)、科学ジャーナル『Science Advances』オンライン版に掲載されました。この研究は、日本、スイス、ドイツ、カナダ、イギリスにおける生物学、言語学、音楽学、統計学の研究者が学際的に行ったものです。

文化はヒトの進化や多様性を理解するための鍵となる指標です。近年、生物の遺伝情報を調べるゲノム解析技術の進歩により、民族間の遺伝的系統関係と言語や音楽といった文化的要素との関連をひもとこうとする研究が進められています。松前助教らはこれまで、東アジア人や縄文人のゲノム解析により、東ユーラシアの遺伝的な歴史を明らかにするなどの成果を発表してきました。本研究では、ユーラシアの基層集団として注目されている北東アジアとその周辺地域にまたがる11の言語族について、言語(文法、音韻、語彙)、音楽、ゲノムの5要素をさまざまな分析法を用いて比較・解析。それぞれの相関関係を検証した結果、文法とゲノムが統計的に有意に相関していることを解明しました。松前助教は、「多様な文化データを用いて遺伝的な系統関係を定量的に検証した研究はこれまでほとんど行われておらず、言語族をこえた解析は世界初です。この結果により、文法が遺伝的歴史の文化的な指標である可能性が示唆されるとともに、文化的な関係と遺伝的な関係の違いが明確になったことで、人類の歴史の複雑さがあらためて浮き彫りになりました」と意義を説明します。

松前助教が専門とするバイオインフォマティクス(生命情報科学)は、生物学や情報工学、統計学などを融合し、コンピューターを用いて生命現象を解き明かす学問分野です。「子どものころから化石や考古学など古いものを遡って調べる研究にあこがれていた」という松前助教は『ジェラシックパーク』を読み、琥珀に閉じ込められた昆虫の化石から古いDNAを抽出してコンピューターで解析する場面に感動。東海大学で情報工学を学んだ後、東京医科歯科大学大学院でバイオインフォマティクスを専攻し、自然人類学(古代DNAの解析、集団遺伝学)や進化生物学をはじめ、それらの基盤構築のための研究に取り組んできました。

「情報科学は英語と同様に自分の世界を広げてくれます。ビジネスや研究をさらに進展させ、掛け算の九九のように日常生活に浸透するでしょう。文系と理系を融合させた新しい知見を導き出すなど大きな可能性を持っていることも魅力であり、今回の成果もその1つです。言語などの文化のバリエーションと進化の過程を明らかにすることは、ヒト特有の行動と社会からの影響について分析する上で重要と考えています。本研究により、デジタル化された文化データが複雑な文化を持つ地域の研究に活用できることも示されました。今後は、日本語や北東アジアの個別言語の起源や歴史の解明にも取り組んでいきたい」と話しています。

※『Science Advances』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://advances.sciencemag.org/content/7/34/eabd9223?_ga=2.75594581.1951259703.1629137388-420924523.1503948330