海洋文明学科の川﨑教授が静岡市の市民大学リレー講座で講演しました

海洋学部海洋文明学科の川﨑一平教授が、11月12日に静岡市役所静岡庁舎で開かれた令和3年度市民大学リレー講座「未来から今を見つめるSDGs」で講演しました。本講座は静岡市と市内にキャンパスのある5大学(静岡英和学院大学、静岡県立大学、静岡大学、東海大学、常葉大学)が連携し、5回にわたって講義するもの。今年度は「未来から今を見つめるSDGs」をテーマに各大学の専門家が登壇し、対面とオンラインのハイブリッド形式で各40名程度が参加して実施されました。

文化人類学や民俗学が専門で、パプアニューギニアにおける気候変動への社会文化的適応や、気候変動を視野に入れて住民と協力しながら太平洋島嶼の資源管理モデルの構築に取り組む川﨑教授は、「未来と世界と人間を考え、動く力:大学が目指す人づくり」と題して講演しました。まず、パプアニューギニアの共通語であるピジン語と、同国の少数民族であるバヒネモ族のみが話す言葉であいさつ。会場の参加者とコミュニケーションを取りながら「皆さんは今回初めてパプアニューギニアの言葉を聞いたことと思います。さらにバヒネモ語は世界で500人しか話さない言語であり、すぐに意味は分からなかったでしょうが、私が繰り返し同じ言葉で尋ねることで返事をしてくださいました。私たちは用いる言語は違えども、ともに人間であり、喜怒哀楽を感じ、物事について考え、多様な世界観を持っています。今回の講義では文化人類学を通してSDGsの未来と『共感』について伝えたいと考えています」と語りかけました。

続けて、SDGsが掲げる17の目標について、「これら一つひとつはそれぞれ発展途上国の問題であり、先進国が抱える課題でもある。また、地球の環境、気候変動の問題、経済発展などすべて連鎖しています。その一つを解決することで、次の目標も解決するシナジー効果がある一方で、例えば『環境を守っていると経済が発展しない』『経済発展を重視しすぎると環境破壊につながる』といった矛盾関係も生まれます。これらを、いかにして良い関係となるように結びつけ、矛盾をなくしていくことが重要です」と指摘しました。さらに、川﨑教授が大学院生のころから30年以上にわたってフィールドワークを重ねてきたバヒネモ族との交流をはじめ、西洋文化が入ってきた影響で変遷していった生活様式や、経済活動による森林破壊、それを受けた環境保護活動と人々への影響などを紹介。「近年、バヒネモ族には生活様式の変化を受けて局地的な人口爆発が起きています。海外資本がこの地区を豊かにしようと食糧として外来種の魚種を放流した結果、大きく生態系が変化してしまいました。その結果、トラディショナルな儀礼が維持できなくなり、社会関係と人間の成長の秩序が崩れてしまったのです。若い年齢から結婚し、親子2世代で子作りしている。局地的ですが、人口爆発状態になり、食糧問題が発生してしまっているといえます。貧困を改善するための行為が、あらゆるものを変え、結果として問題を引き起こしました」と紹介しました。

また、パプアニューギニアにおける森林開発やその後の環境保護活動、他者によるエコツーリズムの展開など少数民族の村に影響を及ぼすさまざまな事象についても解説するとともに、最後には来年度に静岡キャンパスに人文学部を設立することに触れ、「新しい学部でも学生たちとフィールドワークを続けていきたい」と語りました。

講演後の質疑応答では会場、オンラインともに多様な質問が寄せられ、「文化人類学に興味があり自分でも学んでいますが、パプアニューギニアの人々に飢餓はなかったのでしょうか?」「SDGsが掲げる“だれ一人取り残さない”という言葉は理想論ではないでしょうか?」といった質問に川﨑教授が一つひとつ丁寧に回答しました。参加者からは、「新設される人文学部、面白そうですね! 希望を持てる未来への若者の育成、頑張ってください」といった声が寄せられています。