医学部医学科基盤診療学系先端医療科学の幸谷愛教授(総合医学研究所)と中山駿矢研究員、柿崎正敏特任助教(現・厚生労働省国立感染症研究所研究員)、大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)の山本雄一朗さん(現・東京理科大学助教)らの研究グループが、肝臓由来の細胞外小胞の抗炎症機能を発見。「ヒト肝細胞由来の細胞外小胞はマウスにおける四塩化炭素誘発性急性肝障害を軽減する」と題した論文が10月26日に、イギリスの科学誌『Cell Death and Disease』のオンライン版に掲載されました。この研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「肝炎等克服実用化研究事業」「次世代がん医療創生研究事業」の採択を受けて進められているものです。
急性肝障害は主に肝炎ウイルスの感染により発症し、時に肝硬変や肝がんなど肝臓移植が必要な病態を引き起こします。移植治療は体への負担が大きく拒絶反応や感染症が起こるといった問題があるため、より簡便な治療法が望まれていました。近年、間葉系幹細胞(骨髄に存在し、骨や筋肉、血管などに分化する能力を持つ細胞)から分泌される細胞外小胞(EVs)が、肝臓の炎症や線維化を抑制することが報告され、さらに、肝細胞が分泌するEVsも同様の作用を持つ可能性が示唆されています。本研究グループでは、EVsに含まれるタンパク質や膜を構成する多価不飽和脂肪酸(リン脂質)の機能解析といった、これまで取り組んできた研究の成果をもとに、脂肪酸が抗炎症機能に関与しているとの仮説を設定。急性肝障害モデルマウスを使って実験した結果、肝細胞由来の細胞外小胞が間葉系幹細胞のEVsと同等かそれ以上に急性肝障害に対して保護的に働き、炎症を制御し得ることを明らかにしました。さらに、肝細胞由来EVsに含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)をはじめとする3価の多価不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)が抗炎症に関与していることを突き止めました。
幸谷教授は、「リン脂質に注目したきっかけは、2012年から携わったJSTのプログラム『さきがけ』で慢性炎症をテーマに研究した際、同プログラムに参加した研究者との交流を通じてオメガ3脂肪酸が呼吸器や脳などの臓器に対して抗炎症効果を持つことを知ったことでした。今回の発見は、こうした多様な分野の研究者との交流やさまざまな知見を自分たちのフィールドに結び付け、研究を継続・発展させてきた成果」と話します。中山研究員は、「今後は、よりヒトに近い免疫系を持つ急性肝障害モデルマウスやヒトの肝臓をもつヒト肝細胞キメラマウスを用いて研究を進め、EVsを活用した新たな治療法の可能性を追究していきます。また、肝細胞由来EVsは多様な免疫調整能力や高い組織保護作用を持つことから、急性肝障害だけでなく、急性肺障害など多様な臓器の疾患治療への応用についても研究したい」と意欲を見せています。
※『Cell Death and Disease』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。