海洋研究所の平所長が日環協・環境セミナー全国大会 in ふじのくにで講演しました

海洋研究所の平朝彦所長が10月19日に、静岡県コンベンションアーツセンター・グランシップで開催された「2023年度第30回日環協・環境セミナー全国大会 in ふじのくに」(主催:一般社団法人日本環境測定分析協会、同中部支部)の特別講演に登壇。「人新世における人間と地球の変貌 ―地球管理のための環境測定―」と題して、研究活動の一端を紹介しました。

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)前理事長の平所長は、付加体地質学の確立など海洋掘削研究の国際的発展に対して多大な貢献するとともに、著書『人新世―科学技術史で読み解く人間の地質時代―』(東海大学出版部)などの著作を通じて、人間の活動が過去において、どの地質時代における変動より大きく地球を変え、全地球規模で地質記録が残っている「新しい地質時代」を表す言葉である「人新世」の概念を紹介し、未来を切り拓くための知の力(リベラルアーツ)の必要性を訴えています。

講演では、人新世の概要をはじめ人口や水利用、通信の増加といった経済活動の推移に触れ、1950年代を境に食料消費や水の利用、通信の増加など人々のさまざまな活動が変化し、同様に大気二酸化炭素濃度や表面気温、熱帯雨林の減少など地球環境が加速度的に変わっていった様子を解説。さらに、災害や感染症、事故、経済、戦争の連鎖といった超巨大リスクを指摘するとともに、地層に残った炭素粒子やプルトニウムといった物質から人間活動の活発化を読み取る「標準セクション」について説明し、「標準セクションとは地球規模の人間活動が地層に残した軌陸の解読を意味しており、ここから地球システムが人間活動にどのように応答しているのか読み取らなくてはなりません。そのためには各地の地層記録とさまざまな環境・生態系パラメータに関するデータを蓄積して、自然・人工物記録を解読する必要があります。新しい地球・人間アーカイブ学とそれに基づく予測化学を創生し、その知見に基づいた地球の管理が重要になります」と提言しました。

また、大気二酸化炭素濃度の変遷をはじめ西暦3000年までの気温と海水面の未来予測などのデータを基に地球環境の変化や、JAMSTEC在籍時に携わった地球深部探査船「ちきゅう」による深海掘削、南鳥島周辺海域におけるレアアース泥採鉱といった最新の研究成果を紹介。「人間社会は、サイバー空間と現実を高度に融合させたシステムで経済発展と社会的課題の解決を両立するソサエティー5.0から、地球管理と共生社会の時代であるアース・ソサイエティー3.0へと向かわなくてはなりません。未来を拓くための新たな知の体系の創成には地球・環境科学がベースになるべきです」と強調しました。

講演終了後も来場者から人新世の概念や地球環境保全について多数の質問が寄せられ、平所長が一つひとつ丁寧に回答しました。