東海大学では国際原子力機関(IAEA)との共催で、2月20日から3月3日まで「IAEA国際スクール 原子力・放射線安全リーダーシップ」を実施しました。本研修は、日本・アジア諸国の原子力・放射線利用に関わる若手・中堅の研究者、技術者を対象に開講し、ケーススタディやゲーム形式の演習などを通じて、原子力安全のためのリーダーシップ能力開発が目的です。IAEAと本学が2018年度に締結した原子力安全教育分野における実施協定に基づき実施されており、今回が3回目となります。昨年度は新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け全編オンラインで開催となりましたが、今回は感染防止対策を徹底した上で、湘南校舎1号館Global AGORAを会場に対面で開催。IAEAのスタッフと工学部の教員らがファシリテーターとして運営に参画し、日本原子力開発研究機構、日本原子力産業協会の支援を得て参加者を募り、日本およびアジア諸国から34名が受講しました。
2月20日には開講式を開き、まず工学部の山本佳男学部長とIAEAプログラム・戦略調整課長のキャサリン・アスファウ氏があいさつ。続いて、本学の山田清志学長が基調講演を務め、学園の創立者・松前重義博士による原子力をはじめとしたエネルギーや科学技術教育の歴史や原子力の安全運用への思いを紹介し、「松前博士は世界のエネルギー維持には原子力の活用は欠かせず、安全に運用することで有益なものとなるという思いで本学における教育に取り組みました。今回の研修に参加する皆さんが、原子力の安全な運用を学び、その実現に資する人材であることを信じています」と語りかけました。
参加者は3月1日まで湘南校舎での研修に臨んだのち、2日から3日にかけて東日本大震災で発生した福島原子力発電所事故について学ぶため福島県を訪問。廃炉事業の現状等を確認できる福島県富岡町の「東京電力廃炉資料館」や、放射性物質に汚染されたごみの埋め立て処分について紹介する環境省の特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」、楢葉町にある国立研究開発法人日本原子力研究開発機構福島研究開発部門楢葉遠隔技術開発センターを見学しました。
参加したバングラデシュ原子力規制局のマハタウッディン・シェイク博士は、「昨年8月から規制局の仕事につきましたが、原子力を安全に運用する基礎知識やリーダーとして周囲を率いる方法を得たいと考えこのプログラムに参加しました。東海大学で学ぶ中で多くの友人と知り合い、知識も得られました」とコメント。フィリピン原子力研究所のスタッフでフィリピン大学大学院でも学ぶジェナ・サブレイさんは、「研修では多くのことを学びましたが、特に印象に残ったのはリーダーとは役職ではなく誰もがなれる資質があるということでした。心を落ち着かせ、異なる意見も受け入れながら議論すれば周囲との信頼関係を得られます。今後の仕事に活かしていきたい」と話しました。
本学からは医学部付属病院診療技術部放射線技術科職員の會田直史さんと、大学院医学研究科博士課程2年のエリデムトウさんが参加。會田さんは、「被ばく管理や放射線の影響について学びを深められたほか、人の話をしっかりと聞き、関係性をつくっていくコミュニケーションの重要性を再認識する機会になりました。ここで得た知識を職場にフィードバックできれば」と語り、エリデムトウさんは、「大学院では放射線治療についての研究に従事していますが、プログラムでは放射線管理の基準についてヨーロッパとアジアの違いを知ることができ、今後の研究に活かせる経験となりました」と充実した表情を見せていました。