文明研究所が「環境と文明」をテーマに「『文明間対話』サテライト・シンポジウム」を開催しました

文明研究所では12月8日にオンラインで、「環境と文明」をテーマとする「『文明間対話』サテライト・シンポジウム」を開催しました。本研究所は、本学が建学の理想として掲げている「調和のとれた文明社会の建設」を実現するための基礎的研究の場として1959年に創設。細分化された学問分野を統合して文明に関する包括的な研究を確立し、現代文明が直面する諸問題を総合的な視点で解決することを目指しています。このシンポジウムは、現代文明を考える上で喫緊の課題である環境に焦点を当て、人間の文明が自らを取り巻く環境に対してどのように立ち向かっているのかを学際的な視点から考察し、文明と自然が調和した持続的な共存の可能性について検討しようと開いたものです。

当日は、基調講演を予定していた九州地方環境事務所長の岡本光之氏(東海大学客員教授)が体調不良により欠席となったため、コーディネーターを務めた本研究所の平野葉一教授(文学部文明学科)が代理で講演要旨を紹介。関連研究報告では、学長補佐で理系教育センター所長の中嶋卓雄教授とスチューデントアチーブメントセンターの田中彰吾教授が講演し、多くの教員らが聴講しました。

はじめに、本研究所の山本和重所長(文学部歴史学科日本史専攻教授)があいさつ。2011年の東日本大震災を機に開始した「東日本大震災と文明」と題する研究や、17年からスタートした環境と人間の共存を図る「環境QOL」に関する研究など、これまでに本研究所が取り組んできた「環境と文明」に関する研究プロジェクトの変遷を紹介し、研究活動に協力している文学部と文学研究科、環境省への謝辞を述べました。

続いて平野教授が、岡本氏から寄せられたメッセージをもとに、「カーボンニュートラルを目指す時代と里山イニシアティブ」と題された講演の概要を紹介。気候変動対策が待ったなしの状況にある中、最先端の知識や技術と環境対策や防災に役立つ「阿蘇の野焼き」のような伝統知とを融合させた、「SATOYAMAイニシアティブ」(国が推進する21世紀環境立国戦略の一つ)の取り組みについて紹介し、その有効性を強調。「持続可能で真に豊かな地域社会をつくるためには、『SATOYAMAイニシアティブ』をはじめ、新しい価値観や、幸福とは何かといったさまざまな問題を総合的に考えていく必要があり、環境と文明をどのように統合するかが重要」と結びました。

関連研究報告では中嶋教授が、「現代社会のresilienceを考える―bricolageの視点から―」をテーマに講演。地震や感染症といった大きな環境の変化に人はどう立ち向かい、何を契機として、どのようにレジリエンス(resilience=回復)的な行動をとるのかを、近年、アントレプレナーシップの危機対応として語られているブリコラージュ(bricolage)に注目して考察しました。中嶋教授は、ブリコラージュを、「すでに持っているものだけでなく、今まで利用していなかった多様な要素を活用するなど、内部資源と外部資源を結び付けること」と説明し、その意義や活用事例を解説。また、自身が体験した2016年の熊本地震における現場の状況を振り返り、ブリコラージュの視点は臨機応変な対応が求められる複雑な環境下でも生かされると語りました。最後に、人間の活動や生態系が均一化に向かっていると指摘し、「ブリコラージュ的な発想や活動を行うとともに、時間的な推移や因果関係を把握しながら生態系へのかかわり方を考え、多様性の回復を目指すべきではないか」と述べました。

「ランドスケープを考える―自然を生きる人間の想像力―」と題して講演した田中教授は、ランドスケープを「人間が環境と出会う際に“ひとまとまり”として知覚され、しばしば美を伴い、生活に必要な活動をすることで歴史的に形成されるもの」と定義し、東日本大震災を機に防潮堤が建設された宮城県石巻市雄勝町例に、ランドスケープの変化と人々の生活や生態系との関連について紹介。多様な分野に関するデータや知見をもとに、「防潮堤は海と陸の連続性を分断し、地元の漁師が“浜の感覚”と呼ぶような漁師の生業を支える暗黙知を大きく妨げるとともに、地域の生態系を劣化させる」と分析しました。また、海と陸を有機的に結び、人間が居住するランドスケープの形成拠点でもある「里」の重要性を強調し、「里をどのように位置づけ、どのようにサスティナブルなものに変えていくかが、ランドスケープを守る上での鍵になる」と語りました。終了後には、講演者と参加者が活発な質疑応答や意見交換を展開しました。