スチューデントアチーブメントセンターの田中彰吾教授がオックスフォード大学出版局から学術書『Body Schema and Body Image』を刊行しました

スチューデントアチーブメントセンターの田中彰吾教授が共同編集・執筆した学術書『Body Schema and Body Image:New Directions』(身体図式と身体イメージ:新しい方向性)を、このほどオックスフォード大学出版局から刊行しました。身体図式と身体イメージの概念や双方の関係を哲学的に整理して解説するとともに、その視点を脳科学の知見や脳神経系疾患などの診断・治療につなげ、身体性に関する研究や臨床への新たな方向性を示唆したものです。企画・編集は、田中教授とイスラエルの哲学者ヨハイ・アタリア氏(テル=ハイ・カレッジ准教授)、アメリカの哲学者ショーン・ギャラガー氏(メンフィス大学教授)が担当。編者3名をはじめ、哲学、心理学、神経科学、精神医学、リハビリテーション、ロボティクスなどの分野で身体性に関する最先端の研究に取り組んでいる、10カ国以上20名の研究者が執筆しました。

身体図式と身体イメージは、どちらも身体と意識にかかわる概念です。身体図式は、自転車の乗り方のように体が覚えていて意識せずに機能するシステムで、事故などで失った体の一部が存在しているように感じる症状(幻肢)などと関連しています。一方、身体イメージは体のシルエットのようにはっきりと自分で意識できるもので、体形を過剰に気にすることで発症する拒食症などに関係しています。「幻肢や摂食障害、身体失認、離人症といった病的症例の原因は、身体図式と身体イメージの観点から説明できると考えられます。両者はこれまで科学者の間でも混同されがちでしたが、適切な診断・治療のためには双方を明確に区分し、どちらが原因となっているかを見極めた上でアプローチしなければなりません。それを提案し、研究や臨床に生かしていくのがこの本のねらいです」と田中教授は語ります。

本書は、哲学的な理論の解明、脳神経科学の最新知見、具体的な病理の理解の3パートで構成されています。田中教授は、「運動学習における身体図式と身体イメージ」をテーマに執筆。運動学習には、脳と身体だけでなく環境が重要なファクターとなることを説くとともに、身体図式と身体イメージの哲学的概念と脳神経科学の知見を関連づけながら、目的とする体の動きをマスターする際のコツやカンについても論じています。

田中教授は、「出版のきっかけになったのは、2018年3月に東京大学駒場キャンパスでアタリア氏とともに企画開催した本書と同名の国際シンポジウムでした。基調講演をお願いしたギャラガー氏をはじめ気鋭の研究者が参加し、質の高い活発なディスカッションが展開されたことから、“この成果をぜひ本に”と、3名の編者が意気投合。企画書の作成から出版社との協議、執筆者の選定、査読、編集に至るまで議論と作業を重ね、ようやく発行にこぎつけました。盟友2名と共編著した本を、学術書出版の最高峰であるオックスフォード大学出版局から刊行できてうれしい。協力してくれた皆さんに感謝しています。身体性の研究に関して分厚いメッセージが込められた一冊です。探究に取り組む多くの研究者に読んでほしい」と話しています。