建築学科の稲益准教授が建築史学会賞を受賞しました

建築都市学部建築学科の稲益祐太准教授がこのほど建築史学会賞を受賞し、4月15日に茨城県・つくば国際会議場で表彰式と受賞スピーチが行われました。同賞は過去3年間に公表された論文、著書、報告書などから建築史学における優秀な個別業績に対して贈られるもの。稲益准教授は昨年度発行された著書『南イタリア都市の空間史―プーリア州のテリトーリオ』(法政大学出版局)が評価されました。

イタリア南部のプーリア州はブーツ状の半島のかかと部分にあり、日本では建築史に関する研究はあまり進んでいません。稲益准教授は、「長く外国の支配下にあり、他国の政治の影響を大きく受けてつくられた地域です。自立的な都市国家の形成ばかりが注目されてきましたが、こうした地域での都市の在り方にも目を向ける都市史もあるべきだと思いました」と大学院生時代から研究に取り組んできました。中でも、「一つの都市だけを見るのではなく、周辺都市との関係や田園地域での産業、文化など、広い視点で考える必要がある」と、イタリア語で「領域・地域」を意味する「テリトーリオ」に着目。たとえば、19世紀にはガッリーポリという町の地下に35カ所のオリーブオイル工場があり、周辺の田園地帯には都市に暮らす貴族が所有するオリーブ畑があったこと、フォッジャという町の周辺に小麦畑が広がる平野では、繁忙期は零細な農民が、農閑期の冬季には羊を連れて放牧しに来る羊飼いが集まってきて、遠くの地域とのつながりが深かったことなどに言及しました。そのほかにも、都市内の住居や道の変遷、産業と住民の生活の関係性など、独特の文化を形成してきたプーリア州を都市や建物の成り立ちと産業・文化の両面から研究してきた点が評価されました。

稲益准教授は、「学生時代から毎年夏には現地に通い、古い地図や文書を紐解きながら実測調査も行い、研究を続けてきました。建築の集合体が都市であり、建築がどのように都市を形成しているか、また、都市の中で建築がどのように変わったかを見ていくのが都市史であり、さらに市や県といった単位を越えたテリトーリオという視点が大切だと考えています。今後も、海側と山側における建築や都市の形成の違い、農場管理のための建築(マッセリア)など、プーリア州をはじめとする南イタリアを対象にさまざまな研究を継続していきます」と話しています。

なお、稲益准教授は同著で「日本民俗建築学会奨励賞」も受賞しており、6月3日の第50回大会で授賞式が開かれる予定です。