北欧学科教員エッセイ「スウェーデンの小学校の教科書を覗いてみると…」

北欧学科で開講されている春学期の講義「スウェーデン概論」では、スウェーデンの社会や文化について広く学習します。そのうち、教育制度は、受講生の関心が高かったテーマの一つです。日本の制度と異なる点が多いからでしょうか。受講生のみなさんからさまざまなコメントをいただきました。ここでは、小学1年生のスウェーデン語の教科書を紹介します。

スウェーデンでは、日本の小学校と中学校とが合わせた基礎学校と呼ばれる9年制の学校があります。小学校1年生とは基礎学校の1年生で、スウェーデン語の教科書というのは日本でいう国語の教科書ですね。

【写真1】

では、日本とどこが違うのかといえば、それは、教科書が1種類ではないことです。写真は、私の娘が10年以上前に通った基礎学校で使用した教科書の表紙です【写真1】。左がオーラの本(OLAS BOK)、まんなかがエルサの本(ELSAS BOK)、右がレオの本(LEOS BOK)です。表紙だけだと違いが分かりにくいですよね。では、2つめの写真をみてください。これはそれぞれの本の一部です【写真2】。いずれも、「自然のなかへ(Ut i naturen)」の章です。違いがわかりますか?

【写真2】

違いは文字やイラストの数です。テーマは同じです。1年生のときは生徒により読む力にばらつきがありますから、その子に合った教科書が必要だという発想で複数の教科書が作られています。学校の現場では、担任の先生が1人ひとりにあった教科書を選びます。そして、生徒が読むのに慣れてくると、次の段階の教科書を与えます。ちなみに、教科書は日本のような給付型ではなく「備え付け」型で、学校から借りています(なお、写真の本は筆者が出版社から購入したものです)。また、どの教科書を使用するかは学校長が決定できますので、同じ自治体にある学校でも使用する教科書が異なっていることがあります。

スウェーデンでは、1990年代初頭に教科書検定が廃止され、教科書には出版社の創意工夫がみられます。出版社がこの読む力別の教科書をつくったときには「子どもをランクづけするのか」という批判もあったようですが、いまではすっかり定着しています。なお、この出版社のスウェーデン語教科書は、2年生用が2種類で、3年生用が1種類です。つまり、3年生では、生徒がみな同じくらいの読む力を身につけていることが目標であるということですね。

最近では、デジタル版なども出ていてさらに進化しているようです。スウェーデンの他の出版社が発行する教科書や、北欧の他の国の教科書と比較してみるのも面白そうです。

(執筆担当:秋朝礼恵)