本学の織田憲嗣名誉教授と北海道東川町文化交流課文化推進室の岡本周氏による特別講義を7月17日に、文化社会学部北欧学科の「北欧文化論」授業内で実施しました。織田名誉教授は、イラストレーションや家具デザインの専門家で、2015年まで本学芸術工学部で教鞭をとりました。北欧を中心とする椅子の収集家・研究者としても著名で、1997年には長年にわたってデンマーク家具の価値を世界に知らしめた功績で同国政府からデンマーク家具賞を贈られたほか、2015年にはハンス・J・ウェグナー賞を受賞しています。現在は、東川町の芸術文化コーディネーターとして活躍。昨年度には本学と同町の包括連携協力に関する協定の締結にも尽力しています。講義はWEBビデオ会議システム「Zoom」を使って行われ、本学科の学生や本学の教職員、学外の研究者ら約40名が出席しました。
最初に岡本氏が、東川町の概要やまちづくりの理念を紹介。10年前と比較して人口や商店の数が増加している背景に、約30年前から写真を通して世界の人々をつなぐ「写真の町」を宣言して、文化を中心にした独自のまちづくりを展開してきたことがあると説明しました。また、隣接する旭川市の特産品として知られる「旭川家具」の一大生産地であることから、町内で生まれたすべての子どもたちに椅子を贈る「君の椅子」プロジェクトを展開するなど、自然を介した文化の形成にも力を入れていることを紹介。その一環として、織田名誉教授が収集した「織田コレクション」の公有化と公開に向けた準備を進めていることに触れ、「この一大コレクションを日本の家具文化や生活文化の向上につなげたいと考えています。東海大学とも相互に刺激しあう関係を築き、文化の発展に貢献していきたい」と語りました。
続いて織田名誉教授が、「本物」の家具に親しむことの重要性やデザインとアートの関係について講義しました。日用品の寿命を決める要素には、素材や構造、機能性、デザイン、作者の情熱の5要素があるとしたうえで、「北欧ではいいものを修理しながら長く使い続ける文化がある」と説明。「スマートフォンで多くのことを疑似体験できる時代だからこそ、長く愛される『本物』に触れる経験を積むことが大切」と語りました。また、先進国で唯一、日本にだけ本格的なデザインミュージアムが存在しておらず、本来デザインは「より多くの人の生活に役立つ」ことを目指して生み出されるものであると指摘。「東川町の方たちと協力しながら、近代デザインの重要な作品に触れ、生活文化の向上や価値観の涵養につなげるデザインミュージアムを作る構想を進めています。ミュージアムでは、私が半世紀をかけて得てきた知識や作品にまつわるエピソードなどにも触れられるようにしたい。東海大学の学生さんたちもぜひ、この活動に参加してください」と呼びかけました。
学生たちからは、「現代の人たちは本物を実際に見る体験がなかなか足りていないのではないか、モノに対する価値観を養ってもらいたいという指摘が印象に残りました。また、デザインは、より多くの人によりよい生活を提供するものであるのに対し、アートは、作家自身が納得する作品を作り出すことを目的としている点も勉強になりました」「日々の生活で安くて手軽なものを購入しがちですが、先生から『物の寿命』という話を聞き、一つの物を大切に使うことも大切だと感じるようになりました。今度から物を買うときは、本当にこれは必要なのか、今ある物でも活用できないかなどを考えて購入するよう心がけようと思います」「北欧にはものを大切にする精神が根付いているため、よりよい社会が創造できているのだと考えるようになりました」「東川町では家具デザインの文化が盛んであることを知り、デザイン性と機能性を兼ね備えた家具を見て、図書館に置かれているものなどを体感してみたいと思うようになりました」