岡村准教授、張研究員の研究グループの論文が国際ジャーナル「Journal of Materials Chemistry B」のHot Papersに選ばれました

工学部応用化学科の岡村陽介准教授(マイクロ・ナノ研究開発センター)、張宏研究員(マイクロ・ナノ研究開発センター)らが執筆した論文「Porous nanosheet wrapping for live imaging of suspension cells」が、10月2日公開の英国王立化学会の学術誌「Journal of Materials Chemistry B」(DOI:10.1039/c8tb01943f)に掲載されました。この論文は、青木拓斗さん(東海大学大学院工学研究科応用理化学専攻2018年3月修了)、大阪大学大学院理学研究科の深瀬浩一教授、樺山一哉准教授(マイクロ・ナノ研究開発センター兼務)、波多野佳奈枝さん(2018年3月修了)、東北大学多元物質科学研究所の中川勝教授とともに手掛けた研究成果をまとめたもので、同誌の編集部が選ぶ今年の注目論文「Hop Papers」にも選ばれました。

この研究は、岡村准教授が開発してきたナノシートの製造技術を応用し、液体中に浮遊する細胞を誰でも簡単に長時間観察できるようにしたものです。ヒトや動物の体を構成する細胞にはもともと浮遊して存在しているものもあります。たとえば血液中では赤血球や血小板など多くの浮遊細胞が常時動き回っています。そのため生物の状態を正確に知るには、自然状態にできる限り近い形で浮遊細胞を観察する必要がありますが、これまでは一部の研究者らの特殊技術に頼らざるを得ない問題がありました。また、浮遊細胞の多くは薬剤などの液体を添加するとその場から拡散してしまい、これまでの技術では薬剤投与後の変化を正確に観察することは困難でした。

そうした課題を解決するため岡村准教授、張研究員、青木さんらは、1層60㎚程度のナノシートに均質で小さな穴をあけた「多孔質ナノシート」をJVCケンウッドクリエイティブメディアと共同で開発。ガラス基板にのせた浮遊細胞を多孔質ナノシートで包むだけで、一般的な顕微鏡でも自然状態で観察できる技術を確立しました。また多孔質ナノシートで覆った浮遊細胞は運動できる範囲が制限されて1視野に留まるため、薬剤投与直後の細胞の形態変化もリアルタイムで観察できるようになりました。

岡村准教授は、「私たちの研究室ではこれまでも、顕微鏡を使った臓器や脳組織などの長時間観察を可能にする撥水性超薄膜の製造と三次元画像の撮影に成功しており、多孔質ナノシートと組み合わせることで、イメージング技術や医療、工学などさまざまな分野の発展に貢献できるようになるのではないかと期待しています。一方で、これらのナノシートを使った見える化技術が発展すれば得られるデータ量が膨大になるため、AIなどを活用してそれらを正確に解析する技術の開発も不可欠になると考えています。今後も幅広い分野の研究者と連携し、ナノシートというマテリアルの観点から、これまで見えなかったものの可視化を実現する研究を続け、社会の発展に貢献していきたい」と話しています。

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