NASAで数値流体力学を研究する卒業生・西川裕章氏の講演を実施しました

工学部と大学院総合理工学研究科(博士課程)では7月18日に、湘南キャンパスでアメリカ航空宇宙局(National Institute of Aerospace=NASA)で数値流体力学を研究する卒業生・西川裕章氏による講演「情熱の数値流体力学アルゴリズム研究とアイデア:三つのエピソード、一つの実話」を実施しました。西川氏は工学部航空宇宙学科を1994年度に卒業し、米国立航空宇宙研究所(National Institute of Aerospace=NIA)の研究員としてNASAラングレー研究所でアルゴリズム研究と実用コード開発に従事しています。この講演は、本研究科「共同ゼミナール」として開いたもので、オンラインも含めて学生と教職員ら約80名が出席しました。

空気や水の流れといった現象をコンピューターシミュレーションで再現し、その様子を解析する数値流体力学(Computational Fluid Dynamics=CFD)における問題解決の手順であるアルゴリズムは、1990年代に大きな発展を遂げました。特に複雑形状を扱う実用計算では、さらなる精度と効率の向上を目指して研究が続けられています。講演では、新しいアルゴリズムがどのようにして生まれるのか、西川氏ならではの視点から解説しました。
西川氏は最初に、「一つの質問からどのようにして新しいアイデアが生まれるか」、自身の経験から話題を提供。「質問して議論し、その答えを見つけようとする中からアイデアが生まれることがあります。よい質問はアイデアを生むきっかけになります」と話しました。

続いて、「『正しい質問』をすることが時には重要です」と指摘。これまでに実証された数値流体力学計算を例に議論の深め方を説明しました。さらに、自身が苦心して取り組んできた解析の過程や米国での研究者生活を振り返り、「既存の枠をはみ出すような斬新なアイデアは、追い込まれた時に生まれることがあります。そのようなアイデアを思いつくと、私はこの仕事が本当に面白いと感じます」と話しました。西川氏は最後に、NASA ラングレー研究所で身近に起こった研究機関との契約上の変革にまつわるエピソードを紹介。研究者同士がしのぎを削りながら成果を出していく米国の研究機関における逸話を披露しました。西川氏は、「東海大学在学中から大学院、ポスドク時代、米国に渡ってからも何度も挫折しそうになりましたが、研究者としての道を進もうという意思は一貫して変わらず、むしろ逆境に立ち向かうほどやる気をもって歩んできました」と話し、参加者に向けて「うまくいくかどうかわからないことに全力を尽くしている瞬間こそが青春。自分が何をやりたいか決めて懸命に歩き出せば、周囲が助けてくれるようになります」とメッセージを送りました。

終了後は、参加者から「国境を越える研究成果の共有」や「よい疑問をもつためのコツ」「数値流体力学のこれから」などについて多くの質問が出ました。西川氏は質問者と丁寧にやりとりをしながら自身の経験を交えて答え、「全てをひっくり返すようなアイデアは、これから出てくると思っています。それを思い付きたいと、日々、研究に取り組んでいます」と締めくくりました。熱心に聴講していた小川将虎さん(大学院工学研究科2年次生)は、「研究に向き合う情熱と、あえて安定を望まない姿勢に圧倒されました。これから博士課程に進み、数値流体力学の研究を行いますが、自分の研究が何に役立つのか、常に自身に“正しい問い”をしながらやっていきたいと思います」と話しました。