知のコスモス講演会「ドイツ民衆は第一次世界大戦を本当に『耐え抜い(durchhalten)』たのか」を開催しました

文学部歴史学科西洋史専攻では6月11日に湘南校舎で、知のコスモス講演会「ドイツ民衆は第一次世界大戦を本当に『耐え抜い(durchhalten)』たのか」を開催しました。当日は本学部の鍋谷郁太郎客員教授が講師を務め、第一次世界大戦化のドイツに焦点をあて、戦禍を生き抜いた民間人やその心性について講演しました。

はじめに、第一次世界大戦下のドイツでは絵葉書が戦況など情報を得る手段だったことを説明し、「対戦中の4年間でも285億通の絵葉書がやり取りされていました。さまざまな状況やメッセージが書かれている中には『耐え抜く(durchhalten)』という言葉が記載されており、このスローガンについて考えていきます」と語り掛けた後、開戦の経緯や戦死者数、国内の状況などについて解説。非戦闘員である民間人が「武器を持たない兵士」として位置づけられ、殺戮の対象となってしまった経緯を説明し、「この戦争から民間人への殺戮が始まり、少なくとも500万人が亡くなっています。榴弾砲などの新兵器も多く導入されたことによって、体の一部を欠損するといった戦傷者も多く出ました。兵士以外も殺戮の対象になってしまったのは、戦争の長期化によって総力戦となり、女性や子ども、老人までもが戦争にかかわることになってしまったことが原因です。それにより『国内』と『前線』の境界がなくなり、武器や食料の生産や看護を行う民間人も敵国の兵士から攻撃の対象になってしまった」と話しました。

その後は、フランスが定義する“敵への憎悪で耐え抜いた”とする「戦争文化論」を軸に、国ごとに形成されたイメージや価値観などを解説。民間人が4年間を生き抜いた心性とされるスローガンについて説明し「『耐え抜く』は、民間人が闘う意思を強く持つために権力者が作ったプロバガンダ用語です。戦争になんとか折り合いをつけていくあり方の『耐える(anshalten)』とは大きく異なります。権利者の願望バイアスにかかっていることにフランスの歴史研究者が無自覚すぎたのです」とまとめました。