シンポジウム「牛久沼のほとりへ橋を架ける~住井すゑ文学館開館事業を記念して~」を開催しました

文学部日本文学科では3月18日に、湘南キャンパスでシンポジウム「牛久沼のほとりへ橋を架ける~住井すゑ文学館開館事業を記念して~」(第31回知のコスモス)を開催しました。住井すゑはベストセラー小説『橋のない川』で知られる作家で、夫で同じく作家として活躍した犬田卯ら家族と共に茨城県牛久市城中町に長く住んでいました。住井の没後、執筆資料の一部は日本近代文学館に寄贈されましたが、旧宅は2018年に牛久市に寄贈され、21年11月に文学館として整備されました。本学科では、伊藤一郎名誉教授や安達原達晴講師らが中心となって旧宅に残された資料の調査と整理に協力。今年度からは科学研究費助成事業の採択を受けて本格的な研究を進めているほか、3月9、10日には、大学院文学研究科の学生4名が資料整理に参加しました。

シンポジウムでは、文学館の整備事業に携わってきた牛久市教育委員会文化芸術課の担当者3名(木本挙周課長補佐、有薗舟仁学芸員、飛鳥川みつき主査)が整備の経過や旧宅寄贈後に『橋のない川』の草稿や住井の日記などが発見された経緯、資料整理手順と作業の現状などを紹介しました。その後、安達原講師が草稿から読み取れる住井の執筆スタイルの特徴について研究成果を報告。その後、千金楽健非常勤講師が、立志小説とノスタルジー小説という2つのキーワードから『橋のない川』の構造を読み解いたほか、早乙女牧人非常勤講師が住井家の隣人で、医師・俳人として活躍した平本くららと住井の交流について、住井の日記やエッセイなどを使って考察した結果を報告しました。個別報告の後には、パネルディスカッション形式で登壇者と来場者による討論も実施。住井の文学界における評価や文学と政治の関係などについて意見を交わしました。

司会進行を務めた安達原講師は、「牛久市と東海大学という官学連携の橋を架け、双方の担当者が一堂に会して議論できたという意味でもこのシンポジウムの意義は大きいと考えています。資料は残そうという強い意志を持った人々がいなければ後世に引き継がれないものであり、これまで尽力してこられた牛久市の方々には敬意を表します。我々研究者は、残された資料を教育・研究などさまざまな形で生かす使命を担っています。今後も研究を進めつつ、資料のより効果的な活用の道を探っていきたい」と話しています。