知のコスモス「ファミリーヒストリーと近現代史・地域史を繋ぐ─明治~昭和期井上家三代と横浜─」を開催しました

文学部歴史学科日本史専攻では10月28日に湘南キャンパスで、知のコスモス「ファミリーヒストリーと近現代史・地域史を繋ぐ─明治~昭和期井上家三代と横浜─」を開催しました。今回で33回目、旧「知のコスモス」から通算第386回目となる今回は、主に県内から約40名が参加しました。講師を務めた本専攻出身で前横浜市歴史博物館副館長の井上攻氏(博士(文学))は、(公財)横浜市ふるさと歴史財団理事などを歴任。近世の歴史に関する著作も多く、今年6月に刊行された『近世の村・地域と運営主体―相給・入寺・文字文化―』(野の花出版社、2023年)は氏の40年余の研究生活の集大成で、663ページにおよぶ大著です。

開会にあたり本専攻の兼平賢治准教授が、「これまで地域の歴史を掘り起こすシリーズとして実施してきた講演会は、昨年度のシンポジウムで一区切りとなりました。今後も地域の皆さんに歴史研究の成果を還元し貢献したいと考え、今回は“歴史を学ぶ魅力”を感じていただこうと、地域の歴史に詳しい井上先生をお招きしました」とあいさつしました。

井上氏はまず、100年前に発生した関東震災で壊滅的な被害を受けた横浜の様子や、旧尾張藩の武士で、明治維新後に英語力を買われて横浜の商館に勤め、関東大震災で亡くなった曽祖父が勤めていた商館の被災状況、当時の地図などを説明。「関東大震災は横浜の近代と現代、また井上家の歴史を画する大きな出来事でした。偉人や英雄でなくても、先祖を歴史的な当事者として捉えることで、ファミリーヒストリーと日本の近現代史・地域史がつながります」と話しました。先祖の足跡をたどる作業を重ねたことも紹介し、古い人物写真で構成された井上家の大略系図を示して、「親戚とグループを組んで作業を進めると、さまざまな資料が集まりやすい。いとこたちが祖父母や大叔父叔母から我が家の来歴を聞いていた記憶は貴重な分析素材でした。また、国立国会図書館のデジタルアーカイブも情報が充実しているので、検索をかけると多くの情報が得られます」と、ファミリーヒストリーに取り組むコツも披露。「現在、歴史離れや歴史の否定などが憂慮されていますが、自分にとって身近なファミリーヒストリーの親近感や真実味、面白さを通じて、若い世代が気軽で真摯に歴史と接する環境を考えていきたいと思います」と締めくくりました。

参加者からは、「近代社会を生きた人たちのことがよくわかりました」「井上さんの家族の歴史が横浜の歴史と重なっていることに感銘を受けました。自分も一人の市民としてあらためて人生を振り返るきっかけにしたい」などの感想が聞かれました。最後に井上氏は学生に向けて、「人がファミリーヒストリーに関心を持つのはおうおうにして仕事をリタイアしてからが多い。退職すると、自己の存在証明が職場などの社会的なものから、家や一族の歴史、ルーツなど歴史的アイデンティティに移行するからです。一方、現状では戸籍は80年で処分されてしまうので、学生のうちに家族の最も古い戸籍を取っておくと、歳をとってからファミリーヒストリーを調べる際に役立ちます」とアドバイスを送りました。