清水港内の海中に沈めて熟成させた酒の味や香りを評価する「沈酒熟成酒官能評価会」を実施しました

海洋学部では11月24日に清水キャンパスで、清水港内の海中に沈めて熟成させた海底熟成酒の味や香りを評価する「沈酒熟成酒官能評価会」を実施しました。この試みは、「沈没船など海底から引き揚げられたお酒はおいしい」という伝承をもとに、海底に沈めた酒の変化を調査し、静岡県内の酒造業者らと連携して新たな特産品の創出につなげることを目的としています。当日は、研究用の酒類を提供していただいたシダックス中伊豆ワイナリーヒルズ㈱(伊豆市)と三和酒造㈱(清水区)をはじめ、近隣の酒類販売店の代表者を招待。本学からは、この研究の中心になって取り組んでいる海洋フロンティア教育センターの合志明倫講師と鉄多加志准教授、水産学科の後藤慶一教授と研究室の学生らが参加しました。

海底熟成酒の研究は、企業からの依頼を受けた合志講師と鉄准教授が2019年度に開始。沖縄県・宮古島で「泡盛」を海底洞窟に沈め、熟成させた酒の成分分析や香気分析などを後藤教授が担当しました。これまで年に1回の頻度で沈め、3回の海底熟成酒研究に取り組んできました。合志講師らは海底約2000mの恵み豊かな駿河湾でも海底熟成酒を試そうと、以前より交流のあったシダックス中伊豆ワイナリーヒルズ㈱や三和酒造㈱に協力を依頼。今年5月末に、ワインと日本酒100本を清水港内の海底約3mの場所に貯蔵し、11月11日に引き揚げました。

当日は、陸上で熟成させた酒と半年間海底熟成させた酒を、色や香り、味わいといったさまざまな観点から比較して評価。(有)リカーショップおきつ代表取締役の興津義久さんは、「半年という短期間でここまで大きな変化が出るのかと驚きました。特に日本酒の『臥龍梅 両河内亀の尾』は口あたりに丸みがあり、春に搾った酒を秋まで貯蔵してから出荷する『ひやおろし』に似た味わいが感じられました。海底に沈めたというロマンもあるので、熟成酒を好むお客さまだけでなく、多くの方に楽しんでいただけると思います。清水の地酒に“駿河湾の海底で熟成”という付加価値が付き、清水では最高のお酒になるのではないでしょうか」と期待を語りました。

後藤教授の研究室に所属し、熟成酒の分析に携わっている坂井春一さん(4年次生)は、「ソムリエの方々がどのように評価するか不安もありましたが、“全然違うね”という声が聞けて安心しました。プロが感じた変化と成分分析の結果を比較するのが楽しみです。今回の分析結果が、今後の海底熟成酒造りに役立てばうれしい」と意欲を見せました。酒を海底に沈める際の荷崩れ防止の施工や潜水データの記録などを担当した鉄准教授は、「潜水の技術や食品分析など、海洋に関する本学部の強みを十分に生かした研究だと思います」とコメント。合志講師は、「海洋とは直接的な接点のない酒類業界とつながるという面白い研究になりました。官能評価会でソムリエの評価をいただき、香りや味わいの違いを記録として可視化できました。参加者からは、“古酒に近い味わいがあった”という声もあり、海底では地上より早期熟成ができる可能性も考えられます。深度や光量、揺れ、水圧など、何が作用しているか解明できれば、海底熟成酒だけでなく熟成肉など食品への応用も期待できます。清水の海底を利用した新たな産業・ビジネスモデルが創出されることを願っています」と話しています。