医学部の中山客員研究員と幸谷客員教授らが炎症性疾患の新規治療法につながる物質「SPLEVs」を発見しました

7月30日にオンラインで開催された記者レクチャーで研究成果を説明する中山客員研究員

医学部の中山駿矢客員研究員(日本大学生物資源科学部助教)と幸谷愛客員教授(大阪大学微生物病研究所教授)らが、サイトカインストーム症候群などの炎症性疾患の新たな治療法につながる物質「SPLEVs」(スプレッズ)を発見し、その作用メカニズムを世界で初めて解明。成果をまとめた論文が 8月1日に、アメリカの科学誌『Science Advances』オンライン版に掲載されました。

免疫の過剰反応により強い炎症が生じるサイトカインストームは、感染症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、がんの免疫療法などの際に現れ、重症化すると呼吸不全や多臓器不全といった致死的な状態になる場合があります。幹細胞を使った治療法が開発されていますが、細胞培養の難しさや十分な効果が得られないといった課題があり、新たなアプローチによる治療が求められています。

細胞間の情報伝達の働きを持つ細胞外小胞(EVs)に早くから注目し、肝細胞由来EVsに含まれる多価不飽和脂肪酸の抗炎症機能を見いだしていた研究グループは、脂質分解酵素「sPLA2」を用いて肝細胞由来EVsの脂質膜を変化させた「SPLEVs」を作成。SPLEVsがサイトカインストームに対する強力な治療効果を有することを、ARDSのモデルマウスを使って確認しました。さらに、SPLEVsが過剰な炎症を鎮める機能を持つ多価不飽和脂肪酸由来の脂質を大量に産生することや、「リピッド・カウンターストーム」と名付けたこの反応が、脂質代謝物「LPG」を鍵として引き起こされるメカニズムを解明。人工的に合成したSPLEVsが、細胞由来のSPLEVsと同等の治療効果を持つことも明らかにしました。

中山客員研究員と幸谷客員教授は、それぞれ特定研究員、専任教授・総合医学研究所所員として本学医学部に在籍中から、EVsに関する多くの成果を報告してきました。中山研究員は、「呼吸器内科学領域の浅野浩一郎特任教授や伊藤洋子教授をはじめ、東海大学医学部の多くの先生方にご協力いただきました。SPLEVsは、ARDSのみならず敗血症や炎症性腸疾患、インフルエンザ肺炎といったさまざまな炎症モデルでも高い治療効果が示されており、新型コロナのようなパンデミック感染症治療の切り札にもなると考えています」とコメント。幸谷教授は、「SPLEVsは、生体に備わっている脂質の力を最大限に引き出し、“脂質で炎症を制御する”というこれまでにないアプローチによる治療法です。人工合成したSPLEVsの効果も実証できたため、より安価で安全な治療薬として社会実装する道も開けました。一日も早く臨床現場に届けるため、研究を加速させたい」と話しています。

※『Science Advances』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adr9135