
医学部医学科基礎医学系生体構造学領域の飯島崇利准教授と理化学研究所脳神経科学研究センターの半野陽子研究員(元・医学部特定研究員)らが、自閉スペクトラム症(ASD)の発症メカニズムを解明。その成果をまとめた論文が3月30日に、国際学術誌『Nature Communications』オンライン版に掲載されました。
ASDは、コミュニケーション障害や興味・行動の偏りを中核症状とする先天的な神経発達症で、有病者は100人に1〜3人と報告されています。薬物療法が行われていますが根本的な治療法はなく、完治は困難といわれています。2~3歳ごろから症状が明白になるため、胎児期から新生児期にかけての脳発達の変容に原因があると考えられていますが、発症機序は明らかにされていませんでした。
研究グループは、「Notch(ノッチ)シグナル」と呼ばれる細胞間の情報伝達経路に着目し、ヒトiPS細胞などを用いた複数のASDモデルについて、シグナルの変化を網羅的に解析しました。その結果、モデルに共通する病態として、Notchシグナルの過剰活性が大脳皮質の高次機能維持に不可欠な神経細胞「VIP養成抑制性神経細胞」(VIP-INs)の分化を抑制することを発見。さらに、胎生期のASDモデルマウスを使った実験により、Notchシグナルの活性を阻害する薬剤「γ-secretase阻害剤」を投与するとVIP-INsの分化が回復し、社会性行動異常や常同行動が改善することを確認しました。
飯島准教授は、「神経が発達する胎生期にNotchシグナルを選択的に抑制することで、完治しないとされてきたASDの行動障害を根本的に改善できる可能性が見えてきました。この成果により、発症リスクの診断や予防法の開発も期待できると考えています」と意義を説明します。半野研究員は、「今後は、マウス以外の動物モデルを使った研究や、より選択的な作用を持つNotchシグナル活性阻害剤の検討を進め、臨床研究へとつなげたい」と意欲を語ります。
飯島准教授は、「本研究は、2021年度に総合研究機構の公募型研究助成『プロジェクト研究』(中型・3年間)の採択を受け、Notchシグナルを長期にわたって探究している総合医学研究所の研究者らの協力も得て取り組んできました。大学のさまざまな支援に応え、ASDの中核症状に対する胎生期・発達期を標的とした新たな治療戦略の道筋を示せたことをうれしく思っています。本研究を臨床応用につなげるための第一歩とし、診断・治療法の開発に向けてさらに努力したい」と話しています。
※『Nature Communications』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://doi.org/10.1038/s41467-026-70321-6
