医学部・大塚正人教授らによる「i-GONAD法」(簡便なゲノム編集マウス作製法)の実験手順がイギリスの科学雑誌『Nature Protocols』オンライン版に掲載されました

医学部医学科の大塚正人教授(基礎医学系分子生命科学)と鹿児島大学の佐藤正宏教授を中心とした国際共同研究グループがまとめた、「i-GONAD法」(簡便なゲノム編集マウス作製法)の詳細なプロトコル(実験手順)に関する論文が、7月24日、イギリスの権威ある科学雑誌『Nature Protocols』オンライン版に掲載されました。大塚教授らが開発した本手法(i-GONAD法=improved Genome-editing via Oviductal Nucleic Acids Delivery)は、すでに国内外の複数の研究グループや研究者に用いられて再現性が確認されており、今回の掲載はその重要性や有用性が認められたことを意味しています。

遺伝子改変マウスは、個体レベルでの遺伝子機能解析実験や疾患モデル動物として使用される、極めて重要な研究ツールの一つです。CRISPRゲノム編集技術を用いた作製法が現在の主流となっていますが、これまでは妊娠母体マウスの卵管から回収(採卵)した受精卵にゲノム編集試薬を顕微注入し、それを別の偽妊娠マウスの卵管に移植するという多くの工程を介した方法で作製されていたため、熟練した技術と高価な設備を必要としました。そこで大塚教授らは、煩雑な工程を経ずに誰でも簡便に遺伝子改変マウスを作製する手法を研究。受精卵(着床前胚)を有する妊娠メスマウスの卵管内にゲノム編集試薬を注入し、卵管全体に対して電気穿孔を行うだけのシンプルな手法「GONAD法」を開発し、2015年に発表しました。その後も改良を重ね、特定の遺伝子を破壊したノックアウトマウスや遺伝子に微細な変化を導入したマウス、外来遺伝子を挿入したノックインマウスなどを高効率で作製できる「i-GONAD法」を確立。さらに、世界中で最も広く利用されているマウス(C57BL/6系統)を効率よくゲノム編集するための、本手法の最適化にも成功しました。

大塚教授は、「誰でも簡単に短時間で目的とする遺伝子改変マウスを正確に作製できるのが、『i-GONAD法』の特徴です。開発して以降、学内はもちろん、国内外の数多くの大学や国際学会から要請を受けて講演やデモンストレーションを実施してきましたが、いずれも大きな反響がありました。今回発表した論文では、熟練した技術や特殊な装置を持たない研究者や学生も遺伝子改変マウスを作製できるよう、実験の各ステップについて詳細な図や動画も掲載しました。本手法の公開は、モデルマウスを用いた研究を加速化させるともに、胚操作がより困難な他生物種への応用にも繋がるのもと期待しています。さまざまな生命現象の個体レベルでの解析をはじめ、ヒトの疾患発症の分子基盤の解明や病態解析、難治性疾患の創薬研究などにも貢献できるよう、さらに研究を進めたい」と意欲を見せています。

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