大学院医学研究科先端医科学専攻の中谷さんが日本音楽療法学会「日野原賞」を受賞しました

大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)4年次生の中谷菜々美さんがこのほど、2025年度「第5回日野原賞(論文部門)」を受賞。9月7日につくば市で開催された同学会第25回学術大会で、授賞式と受賞記念講演が行われました。この賞は、同学会の創設と発展に寄与した故・日野原重明博士を顕彰し、音楽療法の発展に貢献する研究や活動を行った研究者らに贈られています。中谷さんは、2024年12月26日にアメリカ音楽療法協会刊行の『Music Therapy Perspectives』オンライン版に掲載された論文「Music Therapy Preferences Among Breast Cancer Patients Undergoing Chemotherapy: A Qualitative Study」(化学療法を受けている乳がん患者の音楽療法への嗜好:質的研究)が評価されました。

中谷さんらは、手術決定から社会復帰までの周術期に化学療法を受ける乳がん患者の音楽療法のニーズを調べるため、原発性乳がんと診断されて化学療法を受けた経験があるか、または受けている成人14名に対するインタビューを実施。その内容を分析し、話の内容が「音楽との関係」「治療による苦痛」「音楽療法の嗜好」の3つのカテゴリーに分類されることを見いだしました。さらに、対象者が好む音楽療法の形態と内容には「対象者と音楽との関わり」が関連し、対象者が好む音楽療法のタイミングや頻度、時間などには「治療による苦痛」が影響していることも明らかにしました。「この結果は、化学療法を受ける乳がんの患者さんに抵抗なく音楽療法を受け入れてもらえる治療プログラムの作成に役立つと考えています」と意義を語ります。

付属浦安高校から理学部数学科に進学した中谷さんは、自身の病気療養を機に音楽療法に興味を持ち、教養学部芸術学科音楽学課程に編入学して音楽療法士の資格を取得。この療法の可能性を追究するため本研究科に進み、山本賢司教授(総合診療学系精神科学領域)の指導を受けて研究に従事してきました。今年8月には、今回受賞した論文(質的研究)から得られた仮説を検証するため、患者300名を対象に実施した量的研究の成果を国際医学誌『International Journal of Clinical Oncology』で発表するなど、研究を進展させています。

中谷さんは、「尊敬する日野原先生のお名前を冠した賞をいただき光栄です。山本先生、教養学部教授の沖野成紀先生、准教授の近藤真由先生をはじめ、指導・協力してくださった方々に感謝します。今後は乳がんの患者さんに対する音楽療法の効果の検証をさらに進めるとともに、終末期の患者さんの苦痛を緩和するための音楽療法の研究も深めたい」と意欲を話します。山本教授は、「古くから人をいやし、励ましてきた音楽には、医療分野におけるさまざまな活用法があると考えています。中谷さんにはぜひ研究を継続して臨床に役立てるとともに、その成果を広く世の中に発信してほしい」と期待を語っています。

※『Music Therapy Perspectives』掲載論文(第5回「日野原賞」受賞)
https://doi.org/10.1093/mtp/miae029

※『International Journal of Clinical Oncology』掲載論文
https://link.springer.com/article/10.1007/s10147-025-02872-5