医学部医学科の福田講師が女性由来のES細胞、iPS細胞を生体内と同じ状態に戻す方法を確立しました

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の福田篤講師(総合医学研究所、マイクロ・ナノ研究開発センター)らが国立成育医療研究センター研究所再生医療センターとの共同研究で、女性由来の多能性幹細胞(胚性幹細胞=ES細胞、人工多能性幹細胞=iPS細胞)において不可逆的に失われるX染色体不活化を再獲得化する方法を発見。その成果をまとめた論文が11月30日(アメリカ時間29日)、生命科学誌『Cell Reports Methods』オンライン版に掲載されました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」の「幹細胞・再生医学イノベーション創出プログラム」「疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム」(いずれも福田講師が研究代表者)の採択を受けて取り組んだものです。

ヒト多能性幹細胞は試験管内でほぼすべての細胞に分化できるため、再生医療や創薬などに活用されています。しかし、女性由来の多能性幹細胞については、2つのX染色体(性染色体)の一方の働きを抑えて遺伝子量を適正に補正する「X染色体不活化」が機能しなくなるという試験管産物特有の不可逆的な異常が発生し、本来の細胞状態(生体内と同じ状態)を維持できないことが課題となっていました。福田講師らはこれまでの研究でその原因を追究し、女性由来の多能性幹細胞においては、XIST遺伝子の発現制御領域で生じるDNAのメチル化によりXIST遺伝子の発現が抑制され、X染色体不活化に破綻が生じることを明らかにしました。

本研究では、XIST遺伝子の発現制御領域でメチル化したDNAを元の状態に戻す方法を模索。ゲノム編集において「はさみ」の役割を持つタンパク質「Cas9ヌクレアーゼ」を用いて同領域でDNAを切断すると、切断領域のDNAのメチル化状態が変化し、XIST遺伝子の再活性化が可能になることを見出しました。この技術の再現性を複数の女性由来多能性幹細胞で検証した結果、すべての細胞でX染色体不活化が復活することを証明。さらに、女児特異的に発症する神経疾患「レット症候群」の患者由来iPS細胞の神経分化実験に応用できることも確認しました。

福田講師は、「性差は疾患の発症や薬効などでも大きな要因となっているため、女性由来の多能性幹細胞を生体内と同じ状態に復活できる技術を確立し、多能性幹細胞利用における男女差をなくせた意義は大きいと考えています。iPS細胞の最大のメリットは、その人特有のDNAの情報をもったまま試験官の中で実験ができることです。今回開発した技術を使えばiPS細胞による女性特有の疾患の正確な病態モデリングが可能となり、発症メカニズムの解明や診断・治療法の開発を加速させるだけでなく、iPS細胞医療・創薬開発の幅が大きく広がります」と展望を語ります。「研究を続けることは、教科書をつくることでもあります。最新の成果を臨床に生かすのはもちろん、学生たちにも伝え、医学と医療に貢献したい」と意欲を語っています。

※『Cell Reports Methods』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2667237522002491