医学部医学科の津川講師らが腸管内病原性共生細菌「肺炎桿菌」に対する感染防御機構を解明しました

医学部医学科の津川仁講師(基礎医学系生体防御学領域/総合医学研究所)らの研究グループが、免疫力が低下した高齢者らに重篤な感染症を引き起こす腸管内病原性共生細菌「肺炎桿菌」(Klebsiella pneumoniae)に対する腸管粘膜の感染防御機構を解明。成果をまとめた論文が6月8日にアメリカの医学誌『PLoS Pathogens』オンライン版に掲載されました。

肺炎桿菌は自然界に広く分布し、ヒトの腸管内にも生息しています。若齢健常者に対してはほとんど病原性を示さず、高齢者など免疫力が低下している場合に肺炎や肝膿瘍といった病気を引き起こします。しかし、肺炎桿菌がなぜ高齢者を中心に選択的に病気を発症させるのか、そのメカニズムは不明のままでした。

津川講師らは、肺炎桿菌を経口感染させた若齢マウスと老齢マウスの比較実験により、肺炎桿菌は老齢マウスのほうが腸管粘膜内に侵入しやすく、その要因が腸管粘膜に常在するマクロファージ(免疫細胞)の相対的存在量の加齢に伴う顕著な減少にあることを発見。加齢に伴い減少してしまうこのマクロファージは肺炎桿菌を認識すると「Gas6」と呼ばれるタンパク質を分泌し、分泌されたGas6が腸管粘膜上皮細胞の受容体「Axl」に結合すると、これを合図に上皮細胞間接着が強まり、腸管粘膜のバリア機能が高まって肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入を抑制していることを突き止めました。

津川講師は、「病原性共生細菌の病原性を制御する腸管粘膜のバリアメカニズムを分子レベルで解明できました。老齢マウスにGas6を投与すると肺炎桿菌の腸管粘膜内への侵入と肝臓への伝播が有意に抑制され、生存率も改善するという結果も出ており、今後、この成果に基づいて高齢者の感染症予防法の開発につながると期待されます。臨床応用に向けてさらに研究を進展させたい」と話しています。

※『PLoS Pathogens』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1011139