「第1回皮膚ガス研究会大会」を開催しました

理学部化学科の関根嘉香教授が会長を務める「皮膚ガス研究会」が、12月17日に東京都・建築会館で「第1回皮膚ガス研究会大会」を開催しました。同研究会は、人の皮膚から放散される微量の生体ガスである「皮膚ガス」研究の第一人者である関根教授を中心に、技術の社会実装を目指して研究機関や企業が情報を共有するプラットフォームとして2025年3月に設立。大会当日は約100名が参加し、研究者らによる講演や技術を活用した商品開発に取り組む企業によるプレゼンテーションなどが行われました。

初めに関根教授が開催趣旨を説明し、「拡張する知と技術:皮膚ガス研究の最前線」と題して基調講演を行いました。自身のこれまでの研究過程を振り返り、皮膚から発生するガスは血液由来のものが多く、腸内環境や感情の起伏によってガスの組成が変化するといった研究成果を報告。こうした知見を基に製品化された検出機器とストレスチェックの手法を紹介し、「皮膚ガスの検出は痛みを伴わず、膨大な情報量を得られるため未解明の領域を調査できる可能性があります。私共の研究成果をぜひ活用していただきたい」と語りかけました。

続いて、関根教授と共同研究に取り組む企業や本学医学部の教員らによる講演を実施。本学からは、大学院理学研究科2年次生の大坂智実さんと、医学部医学科内科学系消火器内科学の森町将司助教が登壇しました。大坂さんは、株式会社コーセー研究所スキンケア製品研究室香料グループの社員と共に、「睡眠の質が影響を及ぼすヒト皮膚ガス成分について(続報)」と題して、起床後30分以内に対象者から採取した皮膚ガスの検出結果などから、「よく眠れたと感じない」「寝つきと睡眠状態の維持が悪い」と回答した被験者に共通するガスの成分を調査した結果を報告しました。森町助教は、「皮膚ガス分析を用いた新規膵臓がん診断法の開発」をテーマに講演。初期段階での発見が難しく、根治できる方法が手術のみである膵臓がんの早期発見につなげる方法として、皮膚ガスの分析技術を活用し安価で誰でも受けられる非侵襲的診断法の開発に取り組む研究を紹介しました。医学部付属病院での臨床研究を踏まえ、「健常者と膵臓がん患者では検出されるガスのパターンが異なることが分かりました。今後は症例数を増やし、関根教授や関連企業にご協力いただきながら患者さんに負担をかけない新たな検査方法を開発したい」と語りました。講演の合間にはポスターセッションや企業プレゼンテーションが行われ、参加した研究者や企業関係者、学生らが活発に議論を展開しました。

関根教授は、「これまで皮膚ガスに特化した学会がなく、研究者たちはそれぞれのテーマに関連した学会で発表していましたが、効率的に情報交換できる場を設けたいという企業からの声が多く研究会を設立する運びとなりました。皮膚ガス研究は医療、食品、美容など、多岐にわたる分野で応用できる可能性のある技術。研究会での活動が、将来の社会実装につながることを期待しています」と話しています。

当日の講演内容は下記の通りです。

【第1回皮膚ガス研究会大会】

基調講演「拡張する知と技術:皮膚ガス研究の最前線」
東海大学理学部化学科 関根嘉香教授(大会長)

「メンタルウェルネスを支える新しい技術とサービスの展望」
株式会社アイシン先進開発部企画統括室新事業企画第2グループ 山口秀明氏

「睡眠の質が影響を及ぼすヒト皮膚ガス成分について(続報)」
株式会社コーセー研究所スキンケア製品研究室香料グループ 興野朝未氏
東海大学大学院理学研究科2年次生 大坂智実さん

「皮膚ガス分析を用いた新規膵臓がん診断法の開発」
東海大学医学部医学科内科学系消火器内科学 森町将司助教

「マウスの皮膚ガスに関する基礎研究 高気圧酸素治療の影響について」
東京科学大学病院高気圧治療部 小柳津卓哉氏
AIREX株式会社 蘓原滉稀氏

「生体ガス計測に向けたニオイセンサの開発と社会実装」
国立研究開発法人物質・材料研究機構、株式会社Qception 今村岳氏

「皮膚ガスのミカタ『見守り色素』で臭いを変えよう!」
三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center 秋山誠治氏