大学院工学研究科の学生が執筆した論文が国際ジャーナル誌に掲載されました

大学院工学研究科応用理化学専攻の則正雄賀さん(修士2年)と長谷匡高さん(修士1年)が執筆した論文が、11月12日に国際ジャーナル誌「Applied Physics Express」のオンライン版に掲載されました。今回掲載された論文では、微小領域における物質の硬さを評価するナノインデンテーション法を用いて、熱の輸送媒体である「フォノン」の輸送特性(フォノン平均自由行程(Mean Free Path))を測定しました。これまでフォノン輸送は特殊な大型装置で測定するか、計算でしか求められておらず、今回開発した比較的簡便な測定方法であり、熱輸送解析技術の発展に期待されています。

所属する高尻雅之教授(工学部材料科学科)の研究室では、様々な場所で発生する温度差を電気に変換する熱電変換素子の研究に取り組んでいます。2年前に本学工学部光・画像工学科の室谷裕志教授の研究室による「ナノインデンテーション法を用いた表面層の硬さ試験」の研究発表を聞いた2名は、「材料の硬さを求める際の弾性率から、熱輸送の測定ができるのではないか」という視点から本研究に着手しました。フォノンの平均自由行程の測定には、計算で物性値が数多く調べられているシリコンを用い、測定結果は計算で導き出した物性値とほぼ同様の値を示しました。この測定方法が確立されたことにより、今後、ナノ構造材料をはじめとした多くの材料の熱輸送特性評価に貢献していくものと予想されます。

来年の4月から研究関係の企業に就職する予定の則正さんは、「大学生という短い期間で、新たな測定手法を開発し世界に発表できたことは、春から研究者として働く上で大きな自信となりました。社会に出たら大学での研究で培った知識や経験を生かして、社会を支える製品開発や研究に尽力していきたい」と意欲を見せました。今後、この研究を中心となって引き継いでいく長谷さんは、「従来の方法と違うアプローチの研究だったので、手探りで進めていった点が大変でした。初めて論文が掲載されてうれしい反面、これに甘んじることなく研究成果を出せるように精進していきたいと考えています。これからはデータ収集や測定値の精度向上などから、より実用的な形にしていきたい」と話しました。

学生と一緒に研究してきた高尻教授は、「この研究は他に発表している人がいるのではないかと不安もありましたが、論文の査読者から“とても価値のある新しい研究だ”という評価をいただき、安心しました。世界で初めての発見に携わった経験は、学生たちの自信にもつながったのではないかと思います。ナノインデンテーション法からフォノンの平均自由行程を測定できることが立証されたので、今後は多様な材料に活用するために、さらに研究を進めていく予定です」と話しています。