大学院工学研究科の芝さんが国際高分子会議で英国化学会雑誌賞を受賞しました

大学院工学研究科応用理化学専攻2年次生の芝燿汰さん(指導教員=工学部応用化学科/マイクロ・ナノ研究開発センター:岡村陽介教授)が、7月18日から21日まで北海道・札幌市で開催された13回国際高分子会議(The 13th SPSJ International Polymer Conference)で、英国化学会雑誌がスポンサーの「IPC2023 Poster Award: Materials Chemistry Frontiers Award(材料化学フロンティア賞)」(英国王立化学会後援)を受賞しました。この国際会議は、合成樹脂に代表されるポリマー(高分子化合物)を専門とする研究者らが最新のトピックをめぐり議論する場であり、同賞は大会発表者のうち学生を含む若手研究者による優秀な発表に対して贈られます。

芝さんの発表のテーマは「表皮再生能を有する薬剤内包ナノシートの作製と評価」です。膜厚が100nm以下の「ナノシート」は優れた薬剤透過性、高い柔軟性や接着性などの特徴があり、医療面での活用も期待されています。芝さんの研究は、体内に入っても徐々に分解され吸収される安全な素材「ポリ乳酸」からなるナノシートを用いて薬剤をラッピングし、直接患部に貼付して適量の薬剤を持続的に送り届けることを目的にしています。

ターゲットにしているのは、火傷や傷害により皮膚表面の表皮の下の真皮まで損なわれてしまう全層皮膚欠損傷を負った患部の表皮再生です。従来、真皮までの広い範囲の皮膚を損傷するとウシやブタのコラーゲンで作られたスポンジ状の人工皮膚を貼り付ける治療法がとられていますが、人工皮膚は表皮の回復が遅いため、患者自身の表皮が移植されてきました。芝さんは、そうした状況の改善に向けて、医学部医学科の稲垣豊教授と住吉秀明准教授、芝さんが所属する岡村研究室との共同研究として取り組んできました。稲垣教授と住吉准教授はミズクラゲのコラーゲンに高い皮膚再生能力があることを解明しており、芝さんは、住吉准教授とともに伊勢原キャンパスの医学部で、ミズクラゲのコラーゲンをナノシートに包んで患部に貼り付け、透過性によって適量のコラーゲンの放出を続けて表皮再生の短縮化を図ることで、皮膚を移植しなくても回復することを目指して動物実験にも取り組んでいます。

「もともと医学を志していたこともあり、化学に関心を持つようになって以来、医学と化学の融合した研究を目標としてきました。この研究を通じて全層皮膚欠損傷など重い傷を負った人たちの、治療への負担軽減につなげたい」と話します。「稲垣、住吉両先生、岡村先生の指導下で、意義のある研究に携われており、先生方に受賞で報いることができてうれしい。これからはこの知見を社会で生かせるよう精進していきます」と話しています。