東海大学同窓会北海道ブロックの総会・懇親会でデザイン文化学科の中尾教授が講演しました

東海大学同窓会北海道ブロックの総会・懇親会が、2月22日に札幌市内で開かれ、デザイン文化学科の中尾紀行教授が講演しました。当日は、約150名の同窓会員らが出席。中尾教授は「希望の『君の椅子』物語」と題して、2011年3月11日に発生した東日本大震災の当日に生まれた子どもたちに、オリジナルの椅子を贈る「希望の君の椅子プロジェクト」に椅子のデザイナーとして参加した経験を披露しました。旭川大学客員教授(当時)の磯田憲一氏らが主体となって取り組んできた「君の椅子プロジェクト」は、誕生する子どもを迎える喜びを地域の人々で分かち合いたいとの思いから居場所の象徴としての「椅子」を贈る取り組みです。「希望の『君の椅子』」は、震災発生当日という困難な状況の中で岩手県、宮城県、福島県に生まれた104人の子どもたちを対象に、「君の居場所はここにあるからね」とのメッセージを込めて椅子を贈るもの。当時、本学旭川キャンパスにあった芸術工学部で教鞭を執っていた中尾教授は、デザイナーとして携わってきました。

講演では、自らの経歴や旭川キャンパス時代の思い出を振り返りながら、磯田氏から依頼を受けて参加したプロジェクトの概要と何度も試作を重ねながらデザインを完成させていった過程を説明。「震災後まだ3カ月しか経っていない状況でデザイン作成が始まりましたが、まだ避難所暮らしをされている方もたくさんいらっしゃり、物資の供給は不安定でライフラインも安定しない中であり、私自身、自分の価値観を押し付けるものであってはならないと考えるなど非常に難しい作業でした。ただ、間違いなく完成品は”壊れないもの“にしなくてはならないと考えました」と振り返り、「困難な作業に向けて背中を押してくれたのは、磯田さんの”3月11日は非常に悲しい日には違いないのだけれど、あの日を境に新しい日本が始まるかもしれない。その日に生まれた子どもを祝福しよう”の言葉でした。また、デザイン案に悩むとき、自宅に持ち帰ったデッサンを当時8歳の長男に見せたところ、“震災の日のことを忘れないためには、もっと特別な姿でなきゃだめだ”と言われました。震災に向き合うものづくりができず、消極的になっていた自分の姿を思い知らされる出来事でした」と制作秘話を明かしました。

最後に中尾教授は、椅子の実物を示しながら「座面の裏に入れたプロジェクト名の『希望』の希の字の上のペケの形は、創立者・松前重義先生が掲げた『希望を星につなげ』の言葉になぞらえて星形にしました。もうすぐ14回目の3月11日が来ますが、あの日に生まれた彼らの未来が明るいものであってほしいと願っています」とまとめました。