総合農学研究所の今川和彦教授が、11月26日に対面とオンラインで開催された「第30回日本胎盤学会学術集会」の特別講演で講師を務めました。産婦人科医や多様な生物の胎盤研究者らが参加し、臨床現場と基礎研究の研究者による研究交流の場として開催されているものです。
今川教授は「太古のウイルス遺伝子による哺乳類の胎盤の進化」をテーマに講演。はじめに、哺乳類の胎盤の形状について説明し、「哺乳類は心臓や肝臓など多くの臓器がサイズの違いはあれ同じ形状をしていますが、胎盤だけは大きく異なります。しかし、その形状は異なっても根本的な機能は同じです。また、胎盤様構造は一部の魚類や昆虫などにも見られ、サメには卵生と卵胎生、胎生が存在します。この胎盤の形成には、ある遺伝子群が進化に大きくかかわっています」と話しました。さらに、2億2500万年前から存在していたとされる哺乳類の歴史や系統関係にも触れながら、胚が子宮に着床する際に見られる細胞融合や将来胎盤になる部分である栄養外胚葉は哺乳類特有であるという見解を紹介。「ヒトゲノム内のたんぱく質をコードする領域は全体のたった1.5%しかありませんが、SINEとLINE、内在性レトロウイルス(ERV)からなるレトロエレメントは約半数を占めており、数千万年前に爆発的に増大したことなどから、胎盤の獲得ならびに哺乳類進化の原動力になったのではと考えられる」と説明しました。
続いて、哺乳類が胎盤を獲得した過程について、「レトロウイルスが生殖細胞に感染・定着してERVとして子孫に伝播していき、多様な動物種に感染することで現在見られる胎盤形態になっていった」と説明しました。また、ERVのタンパク質由来の遺伝子であるSyncytin-Rum1とウシ内在性レトロウイルスK1(BERV-K1)を発現させる細胞融合実験結果や、新しく機能が優れたウイルス遺伝子を使って効率のよい細胞融合システムに作り替える「機能のバトンパス」について解説。「内在化したレトロウイルスは、細胞融合などの特有の機能だけでなく、機能胎盤特異的発現への関与や機能遺伝子をコントロールしている可能性があります。しかし、まだ発見されていないERVの機能が存在すると考えられており、これからも哺乳類の胎盤は進化していく可能性がある」とまとめました。