農学部応用動物科学科4年次生の大槻海人さんが執筆した論文「胎盤の進化や多様性に関与するレトロトランスポゾン」が、10月に発行される日本卵子学会誌「JOURNAL OF MAMMALIAN OVA RESEARCH」に掲載されることが決まりました。
大槻さんは、研究対象であるウシの受胎率が過去20年で大幅に低下していることからより確実に着床率を向上させるために、着床や胎盤形成、可動遺伝因子の一種であるレトロトランスポゾンの影響に着目し、その進化や多様性について総論をまとめました。哺乳類の妊娠に不可欠な胎盤は、母体から栄養や酵素などを胎児に送るといった役割は同じでも、動物種によって細胞の種類や解剖学的な構造が異なります。大槻さんは論文で、絨毛の分布様式によって散在性胎盤(ブタとウマ)、叢毛性胎盤(反芻動物)、帯状胎盤(イヌとネコ)、および盤状胎盤(げっ歯類と霊長類)の4種類に分類され、さらに胎児の絨毛と母体組織の結合様式によって、上皮絨毛性胎盤、結合織絨毛性胎盤、内皮絨毛性胎盤、血絨毛性胎盤に分類されると説明。「こうした胎盤の多様化にはレトロトランスポゾンが関与していると考えられています。レトロトランスポゾン由来の内在性レトロウイルス(ERV)は胎盤形成に不可欠で、栄養膜細胞に見られる細胞融合や合胞体性栄養膜細胞の形成にも影響を及ぼし、胎盤の多様化をもたらすと言えます」とまとめました。また、ERV由来の遺伝子が既存の遺伝子に置き換わり、以前の遺伝子よりも効果的に機能を発現する「バトンパス仮説」についても触れ、「ERVが新しく組み込まれることで機能の譲渡が起こり、現在の種や系統特異的な胎盤構造の多様性を獲得したのではないか」と仮説を紹介しました。
大槻さんは、「受胎率向上や繁殖に興味があって今川和彦教授(総合農学研究所)の分子繁殖学研究室に入り、研究を続けてきました。初めて論文掲載という形で成果を出せたので、ほっとしたのと同時に素直にうれしかったです。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて春学期は遠隔授業になりましたが、その時間を利用してさまざまな論文に目を通して基礎を固められました。英語の論文を読み解くのは大変でしたが、わかりやすくまとめることを意識しました」と振り返ります。指導に当たった今川教授は、「大学生が総論をまとめることは極めて稀ですが、大槻さんは自分の言葉できちんと表すことができるので書いてみないかと勧めました。何度もやり取りをしながら、多くの論文を読み解き、理解し、自分の言葉に置き換えてよくまとめたと思います」とたたえました。