医学部医学科の小路直准教授(外科学系腎泌尿器科学)がこのほど、患者さんのための前立腺がん専門書『前立腺がんの基本と低侵襲がん標的治療』(ライフ・サイエンス)を出版しました。前立腺がんに関する基本的な知識から、さまざまな検査法や治療法、最新の知見、治療に前向きに取り組むための環境づくりまでを、写真やイラストを用いてわかりやすく解説。小路准教授が初めて日本に導入した、体に負担が少なく排尿機能などを温存できる新たな診断・治療法「核磁気共鳴画像―経直腸的超音波画像融合画像ガイド下生検(MRI―TRUS融合画像ガイド下生検)」「高密度焦点式超音波療法(HIFU)を用いた前立腺がん標的局所療法(フォーカルセラピー)」についても紹介しています。
前立腺がんと診断される患者数は急速に増加しており、国立がん研究センターが発表している「最新がん統計」によると2017年の国内の罹患者数は9万1千人をこえ、男性のがん罹患患者数の第1位となっています。5年生存率は98.6%で他のがんと比較して最も高く、進行を遅らせる薬物療法も進んでいますが、排尿や性機能が損なわれる可能性が高く、背骨に転移すると歩行困難になるなどQOL(生活の質)が著しく低下する場合が多いため、早期に発見して適切な治療を行う重要性が指摘されています。
本書は、第1部「前立腺がんの基本」、第2部「がん標的療法」の2部構成となっています。第1部では、早期発見に有用な腫瘍マーカーであるPSA値やMRI(核磁気共鳴画像)による診断法、組織を採取する生検、各ステージ(病期)の分類について解説。さらに、「MRI―TRUS融合画像ガイド下生検」についても、受検者の体験談を交えて詳しく紹介しています。第2部では、外科手術によるがん標的治療の長所や短所に関する説明に続き、狙った領域や組織を正確に破壊でき、排尿や性機能に影響する部分を可能な範囲で残すことのできる「フォーカルセラピー」の具体的な治療事例や適合する症例などについて紹介しています。
小路准教授は、「患者さんには、病気や治療法についてできるだけ詳しく説明するよう努力していますが、外来診療では十分に時間をとれないのが実情です。そうした中、患者さんが病気に関する正しい知識を持ち、疑問を解決しながら自分の考えを持って治療に取り組むための一助になればと願って本書を執筆しました。文字を大きくしたり、語りかけるような口調にしたりするなど、読みやすく、理解しやすくなるよう工夫しています。この本が、患者さんやご家族のサポートになればうれしい。制作にあたっては、医学部付属病院や本学の関係者をはじめ多くの方にご協力いただきました。支援してくれた皆さんに感謝します」と語ります。
本書の制作には、教養学部芸術学科デザイン学課程の池村明生教授と研究室の学生が協力しており、後藤姫凪乃さん(4年次生)が表紙を、古場彩乃さん(同)が帯のデザインと入稿データの作成を担当しました。後藤さんは、「病気に注目してもらうため、タイトルの病名部分に黒と赤を使い、目立たせるように工夫しました。単行本の制作に携われたことをとてもうれしく思います」とコメント。古場さんは、「二人三脚で治療に取り組む患者さんと家族が冷静にこの本を読めるよう、心を落ち着かせる効果があるといわれる青を帯に使いました。同じ大学に医学部と教養学部があることで医学書のデザインにかかわれたと思います。とても貴重な経験になりました」と話しています。