医学部医学科の浅野浩一郎教授らの研究グループがアレルギー性気管支肺真菌症の新しい診断基準を提唱し、有用性を検証しました

医学部医学科の浅野浩一郎教授(内科学系呼吸器内科学)らの研究グループが、アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の新しい臨床診断基準を提唱し、有用性を検証。その成果をまとめた論文が8月29日に、国際医学雑誌『The Journal of Allergy and Clinical Immunology』オンライン版に掲載されました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「免疫アレルギー疾患実用化研究事業」の採択を受けて行われたものです。

大気中には多くの真菌(カビ)の胞子が浮遊しており、成人は毎日、数百から数万個の真菌胞子を吸入しているといわれています。健康な人は速やかに真菌胞子を排除できますが、ぜんそくなどの気管支・肺疾患の患者や抗がん剤の投与などにより免疫機能が低下している場合には排除できず、さまざまな呼吸器疾患を生じる可能性があります。ABPMは、真菌が気管支内の粘膜に生着・繁殖した際のアレルギー反応により発症し、日本では約1万5千人、世界では約500万人の患者がいると推定されています。悪化すると気管支の破壊(気管支が拡張したままになり粘液を吐き出しにくくなる)や、肺の線維化(線維が過剰に蓄積して硬くなり機能が低下する)を引き起こし、呼吸不全に至るケースもあります。早期に診断できれば有効な治療法がありますが、これまで用いられてきた基準では正確な診断ができにくく、ABPMとわかったときには病気が進行して治療が難しくなることが問題となっていました。

浅野教授は、日本各地の大学の研究者や多数のABPM患者を診察している医療機関の臨床医らと研究班を立ち上げ、2013年から全国調査を実施。ぜんそくの既往や血液検査所見、喀痰・気管支分泌物の所見、胸部CT所見など10項目のうち、「6項目以上を満たせばABPMの診断確定」「5項目でABPMの疑い」とする、新しい診断基準を提唱しました。さらに、粘液採取により病理学的にABPMと診断された79例、日本の呼吸器・アレルギー専門施設の医師が臨床的にABPMと診断した179例を用い、ABPMと間違えやすい好酸球性肺炎やぜんそく、慢性肺アスペルギルス症の151例と比較して、新基準の有用性を検証。新しい基準では、特異度(陰性の場合に正しく陰性と判定できる割合)90%、感度(陽性の場合に見逃さない割合)94~96%と、きわめて高い精度で診断できることを証明しました。

浅野教授は、「特異度と感度のバランスがよく、発症初期の段階でも正しい診断ができる有用な基準であることを検証できました。真菌は、気候や地域、環境によってさまざまな種類がありますが、多様な真菌を原因とするABPMの診断が可能な点も大きな特徴です。新しい診断基準の普及により、気管支や肺の破壊が進行する前に適切な治療を提供することが可能になると期待されます。今後は、免疫機能に注目した新たな治療法の研究開発などにも取り組んでいきたい」と話しています。

なお、『The Journal of Allergy and Clinical Immunology』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(20)31240-9/abstract