国際原子力研究所講演会を開催しました

国際原子力研究所では、原子力分野の研究力向上と人材育成を目的とした一般公開の講演会を、5月29日に湘南キャンパスで開催しました。当日は、原子力規制委員会参事の更田豊志氏(前・原子力規制委員会委員長)が、「原子力の安全を支える基盤の強化」をテーマに講演。学内の学生や大学院生、教職員、学外の技術者、研究者ら約70名が聴講し、活発な質疑応答や議論を交わしました。本学工学部原子力工学科3年次生の授業「総合研究1」と合併し、履修学生も参加しました。

更田氏は初めに、材料・機器などの経年劣化や設計の陳腐化といった既存の原子力発電所の長期使用に対する課題、軽水炉を中心とした新型炉の特徴や新たなシビアアクシデント(過酷事故)対策について説明。東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する近年の調査・分析結果についても紹介しました。続いて、重大事故の進展を遅らせる「事故耐性燃料」の開発状況、内・外的事象の発生確率とシナリオをもとにリスクを把握する「確率論的リスク評価」、幾重もの事故対策を講じる「深層防御」について解説。技術と知識の両面における基盤強化の必要性を強調し、「原子力発電所については安全性の向上や規制の高度化に向けた努力とともに、利用を正当化する議論が求められます。確率論的リスク評価はそのいずれにも重要な指標を与えます」と述べました。最後に、「試験研究用原子炉の減少や経験ある専門家の急減は深刻であり、原子力発電所の継続に当たっては研究力の向上と人材育成が急務となっています。学生の皆さんは、若いうちにぜひ国外に留学・出張してほしい。大きな刺激を受け、視野を広げられるはずです」と語りかけました。講演中や終了後には参加者から多くの質問が寄せられました。

聴講した本学の大学院生は、「原子力の安全利用を進める上で解決すべき問題を包括的に把握できました。 “国外で刺激を受けて”という言葉に学業や研究への意欲が高まりました。機会があればぜひ留学し、より広く深く学びたい」と意欲を語りました。

本講演会を企画・進行した本研究所の亀山高範教授は、「参加した学生・院生たちは熱心に聴講したうえ、多様な観点から質問していました。本講演会は、学生たちが学業や研究への動機づけを高め、将来を考える機会になったと思います。原子力の平和利用には、電気事業・製造業・行政・研究・大学の各機関がそれぞれの立場から取り組むことも必要です」と話していました。