情報通信学部情報メディア学科の久保尋之講師と医学部医学科基礎医学系分子生命科学の松前ひろみ助教がこのほど、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「創発的研究支援事業」に採択されました。若手を中心とした研究者に最長10年にわたる研究資金と、研究に専念できる環境の整備を一体的に支援する新たな事業で、研究者の資質を重視するとともに多様性と融合に配慮して創発的研究を支援し、破壊的イノベーションにつながる成果を生み出すことを目指すものです。
情報通信学部情報メディア学科の久保講師が今回採択されたテーマは、「プログラマブルビジョンによる次世代イメージング」です。2020年度から本学に着任し、特殊なカメラや光源などを利用して人の目では見えない光の波長や偏光を捉え、普段とはまったく違う世界を可視化する「コンピュテーショナルフォトグラフィ」について研究しています。これまでに、光を当てた際に僅かに離れた位置から反射する光を捉えることで、人体内部の血管をリアルタイムで透視することに成功。近赤外線を使う従来の技術よりも鮮明に映り、点滴や採血の際に静脈の位置を高精度に確認できるため、注射などを補助する医療機器などへの応用が期待されています。今後はこの技術を応用し、コンクリートの強度や食物の産地特定、果実の甘味などを非接触で診断する技術の開発を目指しています。
久保講師は、「採択を受け、大変光栄に感じると同時に身の引き締まる思いです。本研究は農業や製造業、医療など非常に多くの分野での活用できます。新型コロナウイルス感染症の拡大が続いていますが、最大10年という採択期間で世の中は大きく変わると思います。多種多様な用途に適用可能な基盤技術を確立していきたい」と語りました。
医学部医学科基礎医学系分子生命科学の松前ひろみ助教のテーマは、「生物学と人文科学の融合:人類情報学(Anthropological Informatics)の構築」です。松前助教はこれまで多様な言語が存在する東アジアの民族ごとに、ゲノム、文法、音素、音楽の4要素をそれぞれ変数に置き換えて比較することで、人の歴史や集団の関係性を調べてきました。今回のテーマはこれまでの研究をさらに拡張し、文化財や博物館に展示されている文化や生物学の標本をデータとしてつなげ、言語や文化との関係性も読み解いていく計画です。本学科の今西規教授や文学部文明学科の吉田晃章准教授、文化社会学部アジア学科の山花京子准教授とともに、東海大学が所蔵するアンデスコレクションを3Dスキャナで読み込み、デジタルミュージアム化する取り組みにも着手しており、そこで得たデータも今回の研究に生かしていく予定です。
松前助教は、「人文科学の研究は役に立たないと考えられがちですが、例えば、人工知能による機械翻訳などの機能は大量の文献や文言をインプットさせることで成り立っています。英語やドイツ語など先進国のメジャーな言語は精度が上がっていますが、マイナーな言語ほど精度は落ち、その背景にはリソース自体の偏りという技術的・倫理的な問題も抱えています。文化の情報はデータ化することで役に立つ可能性があります。その際、人類学は、生物と文化を両方扱うので、情報学としてつなげるための手がかりになると考えました。審査員の方からは、文化と生物学を重ね合わせることが野心的で新しいというコメントをいただきました。文系と理系を融合し、新しい知見を見出せるよう取り組んでいきたい」と語りました。