医学部医学科基礎医学系生体防御学の山本典生教授らが和歌山県みなべ町から委託を受け梅干しの新型コロナウイルスへの効果検証に取り組んでいます

医学部医学科基礎医学系生体防御学の山本典生教授を中心とする研究チームでは、2020年から和歌山県みなべ町から委託を受け、同町の特産品である梅干しの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への効果検証に取り組んでいます。梅は以前から血糖値の上昇抑制や抗腫瘍効果、抗菌作用などが報告され、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する作用も確認されています。みなべ町では20年10月に、猛威を奮う新型コロナウイルスにも同様の効果が期待されると考え、本学医学部をはじめ大阪河﨑リハビリテーション大学、和歌山高専の合同チームに研究を委託していました。

山本教授らは、アフリカミドリザルの細胞にコロナウイルスだけをふりかけた場合と、ウイルスと梅干し抽出物をふりかけた場合とを比較。ウイルスの有無を細胞の染色状況で調べる「プラーク法」、培養液の中でウイルス量を確認する「リアルタイムPCR法」の2種類の方法により検証を行い、いずれも梅干し抽出物を加えた方でウイルス量が減り、細胞への感染、増殖が抑制されることを明らかにしました。合わせて、梅干し抽出物の濃度による効果も調べ、一定の濃度までは強い抑制効果を確認。プラーク法では、初めに感染が拡大した武漢株はもとより、アルファ株やデルタ株、オミクロン株についても調査し、同様の効果を得ました。この研究で確認された梅干しの新型コロナウイルスに対する抑制効果については特許も出願しています。

ウイルス学が専門で、エイズ (後天性免疫不全症候群)の治療薬である「ネルフィナビル」のコロナウイルスに対する効果を確認するなど抗ウイルス薬の開発に取り組んできた山本教授は、「梅干しは古くから健康食品として知られていますが、その効用を学術的に実証したいと考え研究を進めてきました。人での効果の証明にはさらに臨床研究が必要ですが、これまでの研究結果から、梅干しが感染予防に役立つ可能性が示されたと考えています」と話します。研究グループでは、これまで同町で定期的に記者会見を開き、研究の進捗状況や成果を報告しており、今後は同町産梅干しの新たな価値を地域の生産者・消費者の皆様に知っていただくため、町民向けの説明会を実施するなど、研究成果の地域還元にもつなげていく考えです。

「現段階では梅干し抽出物のどの成分が効果を発揮しているのかは不明ですが、科学的なメカニズムを明らかにすることは科学者としての使命です。ひとつひとつ分からない点を解明しながら、世の中の役に立つものをつくり出したいという思いで取り組んでいます。将来的には、研究結果をより効果の高い薬剤、物質の開発につなげていきたいと考えています。一方で、この25年でもCOVID-19以外に重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、新型インフルエンザやエボラウイルス病など、さまざまな感染症が拡大し、国際社会に影響を与えてきました。COVID-19の治療薬では、すでにゾコーバやラゲブリオなどが実用化されていますが、次々に出現する変異株に対応していくために新たな治療薬の開発を進めると共に、次なる感染症の拡大に備えていくことも重要です」と今後を見据えています。