医学部の大友助教らが神経細胞の新たな培養方法を提案しました

2020年04月21日

医学部医学科基礎医学系分子生命科学の大友麻子助教と中川草講師、上田真保子奨励研究員(いずれもマイクロ・ナノ研究開発センター兼務)らが、溝加工を施した高分子超薄膜を使って神経細胞を培養する新たな手法を提案。その成果をまとめた論文「Efficient differentiation and polarization of primary cultured neurons on poly(lactic acid) scaffolds with microgrooved structures」が、学術雑誌『Scientific Reports』印刷版に掲載されました。

超高齢社会を迎え、国内では加齢に伴って発症リスクが高まるアルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の患者が増えていますが、効果的な治療法が見つかっていないのが現状です。こうした疾病のメカニズムを解明し、薬剤を開発するためには人工的に培養した神経細胞が用いられていますが、培養神経細胞は実験ごとに状態がばらつきやすく、均一な条件での研究や、薬剤の作用を定量的に測定することが難しい場合があります。

大友助教らのグループは、工学部応用化学科の岡村陽介教授(マイクロ・ナノ研究開発センター兼任)、東京工業大学藤枝俊宣講師、ならびに早稲田大学理工学術院武岡真司教授らよって開発されたポリ乳酸(PLA)を材料として作製したナノシートを培養基材として使用しました。ナノシートは現在までに、創傷被覆材や顕微鏡観察の際のカバーガラスの代替品としてなどさまざまな用途で使用され、注目されています。このナノシートに立体的な溝加工を施したものと、加工しなかったものを細胞基材として使って、マウスの大脳新皮質由来の神経細胞を培養。オールインワン蛍光顕微鏡や次世代シークエンサーを用いて細胞形態と遺伝子発現解析を行った結果、溝加工のないものでは神経突起がランダムに進展する一方、溝加工を施したナノシートでは神経突起の進展方向が一定に制御されるだけでなく、シナプスの形成にかかわる遺伝子群の発現が早まることを明らかにしました。これまでの研究でも培養基材の形態が神経細胞の形態形成や遺伝子発現パターンに影響を与えることは示唆されていましたが、細胞分化の促進や培養細胞の均一性に大きな役割を果たすことを明らかにしたのは本論文が初めてです。

大友助教と上田研究員らは、「本研究により、立体的な溝加工を持つナノシートが、神経細胞の培養基材として優れていることが示され、研究の障壁となっていたマテリアルの不均一性を改善し、実験の再現性向上にも貢献できると期待しています。その一方で現段階では、培養基材の立体的特性が培養神経細胞に与える影響や、ナノシートの物性が培養神経細胞に与える影響についてはまだ明らかになっていません。今後はそうした課題を解決するため、培養基材の立体的特性やナノシートの物性が神経細胞の分化や成熟に与える影響について分子レベルで解析したいと考えています。生体内に存在する神経細胞は、周囲をさまざまな細胞に取り囲まれた立体的な環境で生存しています。これらの環境をナノシートの技術やマイクロデバイス技術を組み合わせた種々の立体的な培養基材を用いることによって、再現することを目指します」と話しています。

【論文URL】
https://www.nature.com/articles/s41598-020-63537-z

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