北欧学科の講義「北欧の福祉政策」で、ゲスト講師をお迎えしました

北欧学科の秋学期開講科目「北欧の福祉政策」(担当:秋朝礼恵)で、ゲスト講師をお迎えしました。ゲスト講師は、ノルウェー労働福祉事務所相談支援員の若林博子さんです。


北欧の積極的労働市場政策について学ぶ第9回と第10回の授業で、ご自身の経験や就労支援の重要性についてお話しいただきました。
さらに、ご自身の2回の留学や現在の仕事に就いた経緯などについてもお話しいただきました。
受講生にとって、ノルウェーや就労支援について理解を深め、かつ、自分のキャリア形成についても考えられる良い機会になりました。

 さて、講義の様子を紹介する前に、皆さんに質問です。積極的労働市場とは何でしょうか。そして、なぜ「北欧の福祉政策」の講義でこれを扱うのでしょうか。積極的労働市場政策(active labor-market policy)の例として、職業紹介サービスや職業訓練サービスがあります。
失業者や求職者に対する求人の紹介とマッチング、スキルアップのための職業訓練や職業教育です。日本ではハローワーク(公共職業安定所)に行くと受けられるサービスです。ノルウェーをはじめとする北欧諸国は、高福祉・高負担の国としてよく知られています。高福祉「だから」高負担です。財源もないのに高水準の福祉を供給することはできません。その財源は市民が負担する税金や社会保険料です。より多くの市民が働いて納税することが高福祉国家を支えているのです。もちろん、どんな悪条件でも働ければいい訳ではありません。より良い仕事に就けることが目標です。また、仕事を探している人は多様です。障がいのある人もいれば、外国から来てその国の言語に習熟していない人もいます。そこで、それぞれの人に寄り添い、その人に合った仕事を見つける伴走者が必要です。今回のゲスト講師の若林さんはノルウェーのNAVという政府機関で、相談支援員というまさに伴走者としての仕事に従事していらっしゃいます。

 では、若林さんの講義について紹介しましょう。2回の講義の構成は、「NAVの機能と取組み」(第9回講義)、「NAV相談員の働き方とグループワーク」(第10回講義)です。まず、「NAVの機能と取組み」(第9回講義)ではNAVの役割が期待される背景として高齢社会、人口減少、貧困・格差が紹介されました。また、NAVの組織や労働市場の状況と、NAVがノルウェー福祉国家を維持するために重要な役割を担っていることが説明されました。NAVとはArbeids- og velferdsforvaltninga(英語でNorwegian Labour and Welfare Administration、日本語訳では労働福祉事務所)の略称です。
この名称から分かるように、仕事と福祉を結びつけるのがNAVの使命です。適切なときに適切な手当を支給し、それに就労支援(積極的労働市場政策)業務を組み合わせて、より多くの人がより良い仕事に就けるようにする役割を担っているのがNAVです。なお、手当には、年金、失業給付、傷病給付、就労援助給付などがあります。仕事を見つけるまでの生活を経済的に支えるための金銭給付です。これがないと安心して仕事を探せません。NAVはノルウェー全国に400弱の事務所をもち、国家予算の約3分の1を管理するほど大きな組織です。役割やその規模から、ノルウェー社会におけるNAVの重要性がよく分かります。
 次に、「NAV相談員の働き方とグループワーク」(第10回講義)では、まず、若林さんから、第9回講義後の受講生からのコメントに対して回答してくださいました。
受講生からは「人口構成の変化に伴い就労形態を変えていくことがより良い社会の形成につながる」、「NAVがあることで生活の心配が軽減する」、「NAVでは1人ではなくチームで利用者を支援する点が印象的」など数多くのコメントが寄せられました。
また、この回では受講生を7つのグループに分けて、若林さんが提示した事例についての支援策をグループで考えてもらいました。
NAVでは支援員、手当給付の担当者など、1人の利用者に対して職員がチームを作って対応します。ではここで、事例の1つを紹介しましょう。みなさんは、この利用者に対して、どのような支援策を考えますか?

・女性移民50代。生まれ育った国で義務教育終了。
・20年以上同じ清掃業の会社に勤務。
・足腰の痛みで病欠。傷病給付受給。傷病給付が切れるまであと6か月ほど。
・ノルウェーに20年以上住んでいる。離婚し、子ども2人(14歳、16歳)と同居。
・ノルウェー語力は、最低限だが意思疎通はできる。
・主治医は、同じ仕事を続ければ足腰の痛みは悪化すると回答。同じ動作を繰り返す清掃業への復帰を勧めない。
・本人は、転職を希望。子供が好き。

 今回の若林さんの講義は、ノルウェー社会や仕事に関する具体的なエピソードを交えて展開されました。また、日本との比較の視点も交えてくださいました。受講生からは「ノルウェー社会にも移民の問題や再就職が困難な人がいるとわかった」、「NAVが利用者のニーズを第一に考えてヒトを支援しているから、国民は国への信頼感がある」など、自分のこれまでの学習を発展させ、日本との対比でノルウェー社会への理解を深められたようです。お忙しいなか授業を担当してくださった若林博子さんに、改めて御礼申し上げます。